料記事天声人語 2024年2月14日 5時00分
チョコレートの道
コーヒーカップやティーカップは日常的に使っているが、チョコレートカップなる磁器()があったとは知らなかった。江戸時代には鎖国中の日本から輸入して、欧州や中米の人々がチョコレートを飲んでいたという。 どんなカップが、どう運ばれたのか▼大航海時代に中米から欧州へ持ち込まれたカカオは、まず飲み物として広まった。水に溶かして砂糖や香辛料などを加え、よくかき混ぜる。泡と一緒に飲む際に背が高い専用の器が求められ、チョコレートカップが生まれた▼長崎大教授の野上建紀さんによると、当初は中国が最大の輸出国だったが、王朝交代に伴う混乱や貿易制限策で激減。代わりに、有田焼をはじめとする上質な日本の肥前磁器が注目された。17世紀半ばには、長崎の出島から西回りでの輸出が始まったという▼野上さんは東回りの太平洋ルートもあったのではと考えた。当時、フィリピンとメキシコをガレオン船が結んでいたからだ。20年前にマニラの遺跡で、その根拠となる有田焼の皿を初めて発見したときは「祝杯をあげた」そうだ。のちに、背の高いカップも見つかった▼中米での出土品などから、太平洋ルートで運ばれた肥前磁器の「主力商品」がこのカップだったこともわかった。アジアと新大陸を結んだ海の道は、チョコレートの道でもあった▼日本の職人たちは、味わったことのない飲み物の器をつくっていた。バレンタインデーのきょう、歴史に思いをはせながらホットチョコレートを飲もうか