2024年9月28日 5時00分

耳障りな話

 「耳障り(みみざわり)」とは、聞いていて気に障ることをいう。耳にして不愉快に感じたり、うるさく思ったりすることだと辞書にはある。ただ、近ごろは「耳障りのいい話」といったような誤った使い方もよく見る。ひょっとすると意味が変容したか▼きのう、自民党の総裁選が終わり、新たなリーダーに石破茂氏が選出された。過去最多(さいた)の9人が争う選挙戦。この1カ月ほどを振り返れば、ずいぶんたくさんの「耳障りのいい話」を、候補者たちから聞いてきた気がするが、どうだろう▼「地方を取り戻していく」「みんなが笑顔で暮らせる。安心して暮らせる」。石破氏もそんな言葉を繰り返してきた。耳にはスッと入っても、実現(じつげん)させるのは難しい。聞こえのいいスローガンだけでなく、みんなが嫌がる議論にどう踏み込み、古い政治をいかに変えるか▼幹事長の経験者でありながら、耳に針刺す異論をいとわず、党内野党の異名もとった石破氏である。自らがトップに立ったいま、これまでの言(げん)に違(たが)わぬ政治をどれだけできるかが問われている▼そのためにも、まずは裏金問題の真相の解明だろう。〈序悪(ついであ)しき事は、人の耳にも逆(さか)ひ、心にも違(たが)ひて、その事成らず〉と徒然草(つれづれぐさ)にもある。順序を追っていかなければ、世の人は聞かず、物事はうまく進まない▼あらら、いつのまにか、いつもの耳障りな話になってしまったか。いま政治が語るべきは何なのか。耳に逆らう。耳に痛い。耳に障る。私にはやはり、そんなものの方がしっくりくる。