2024年9月1日 5時00分
記録、検証、気づき
米騒動(こめそうどう)、流言、台風。関東大震災での朝鮮人虐殺に関する記録や書籍を調べていて、いくつかの言葉が目にとまった。これまでも読んでいたはずなのに、気づかなかった。いや、知識はあったが、注意が足りなかったというべきか▼虐殺が多発したのは、「朝鮮人が放火をした」といった流言が広まったためだ。中心になったのは自警団だが、実は震災の数年前から結成が進んでいたという。きっかけは1918年、米の価格暴騰で起きた米騒動である▼生活に困窮し、米の適正価格を求めた民衆の動きは全国に広がった。一部で商店や警察署(けいさつしょ)を襲うなど過激化した一方、消防組や在郷軍人会(ざいごうぐんじんかい)などと警察が連動して鎮圧につながった例もあった▼佐藤冬樹(さとう ふゆき)著『関東大震災と民衆犯罪』によると、米騒動で鎮圧した成功例に注目した警察は、民衆を威圧せずに取り込む方が効果的だと考えた。暴動時(ぼうどうじ)に自ら鎮める(しずめる)下部組織(かぶそしき)を結成し、「民衆の警察化」に力を入れていく▼震災での迅速な自警団の結成には下地(したじ)があった。「コメ不足」を案じる今、その事実にようやく気づいた。この数日は「ノロノロ台風」にいらだちつつ、震災時も台風が通過中だったと思い至った。強風で火災が広がった恐怖から流言を信じた人はいなかったか。今のSNS社会でその恐れはないかと▼歴史は繰り返し学ぶたび、新たな気づきがある。それができるのも、101年前の記録が残され、現在も発掘(はっくつ)されて検証と研究が続いているからだ。そう、記録はある。