2024年9月30日 5時00分

兵庫県知事の失職

アメリカには、新しいホワイトハウスのあるじに宛てて、退任する大統領が手紙を残す伝統がある。2009年、ブッシュ氏はオバマ氏に書いた。「つらいときや酷評されることもあるでしょう。でも全能の神が慰めてくれます」▼大国を背負う重責と孤独は、その身となった者にしかわからない。酷評にさらされる中、手紙の言葉に支えられることもあっただろうか▼先日、職を去るにあたって、励みとなった手紙の存在をある人物が明かしていた。不信任決議によって今日、失職する。兵庫県の斎藤元彦知事だ。出直し知事選へ出るか悩んだが、「頑張って」という手紙をもらって立候補を決めたそうだ▼140分に及んだ最後の会見を要約するならば、「職を辞すべきことなのか」という斎藤氏の一言に尽きる。県政の混乱に責任はある、だが道義的責任は認めない、それがあるなら知事を辞めねばならないから――。分かったような分からぬような説明のあげく、いつの間にか自らを、反発をうけながらも戦い抜く改革派と位置づけていた。じつに不思議な会見だった▼祖父に言われた「雲中(うんちゅう)雲を見ず」が座右の銘だという。高みにのぼると、おのれを客観的に見られなくなる。その言や良し。ただ斎藤氏は、もしやまだ分厚い雲海の中をさまよっておられるのでは▼中国の史書の言葉がある。「雲霧を披(ひら)きて青天を観(み)る」。覆っていたものが消え、物事がはっきりする。数々の疑惑は残されたままだ。選挙後には青空が見たい。