2024年9月6日 5時00分
黒きは人の心なり
青きは鯖(さば)の肌にして、黒き(くろき)は人の心なり――。昭和の作家、尾崎士郎(おさき しろう)はよく、そう口ずさんでいたそうだ。悲しいことだけど、この世は欲にまかせた非道が尽きない。そんな人間の邪悪さ(じゃあくさ)を、黒という色は黙って一身に背負っているかのようだ▼でも、どうして黒なのか。確かに、腹黒い(はらくろい)と言えば悪巧み(わるたくみ)をする人を指すし、犯人(はんにん)は黒、無辜(むこ)は白とされる。悪役ダース・ベイダー(Darth Vader)の黒くない姿も想像しがたい。ことほどさよう、黒い色が悪のイメージなのはなぜだろう▼一説によれば、人が漆黒(しっこく)の闇を恐れる心理に基づくものとか。暗闇はすべてを覆い去ってしまう。ローリング・ストーンズはヒット曲「黒くぬれ!」で叫ぶ。〈黒くぬりつぶしたい/夜のように真っ黒に〉。都合の悪い文章は黒塗り(くろぬり)で消され、見せたくない富士山は黒い幕で隠される▼一方で、別の意味合いもある。黒いスーツは厳粛さ(げんしゅくさ)、黒い高級車は権威を連想させる。劣悪な(れつあくな)労働環境を示す「ブラック企業」は日本発の表現で、米国出身の黒人らからは抗議の声もあるそうだ▼本来の黒の象徴はむしろ、強さなのかもしれない。柔道の黒帯(くろおび)がそうだし、黒字は利益を表す。歌手の絢香(あやか)さんは名曲「I believe」で、周囲に流されていた自分の弱さとの決別(けつべつ)を歌った。〈どんな色にも染まらない「黒」になろうと誓った〉と▼きょう9月6日は、語呂(ごろ)を合わせてクロの日らしい。我が心の黒きは何か。甘い黒豆大福(くろまめだいふく)をほおばりながら、しばし目を閉じ、考える。