2024年9月2日 5時00分

自由に選び、生きる

 どこからツッコミを入れるべきかと考えているうちに、「事実上撤回」となった。東京23区から地方へ移住する独身女性への支援金制度案である。小紙が方針を報じたのは先月29日。翌30日に、自見英子(はなこ)・地方創生相が記者会見で「再度の検討を指示した」と述べた▼案は最大60万円で、加算を含めて検討された。地方の婚活イベントに参加する交通費も支援し、移住には就労や起業を条件としないという。働かなくていいから地方に移住して結婚し、子どもを産んで欲しい――。そんな思惑が見え見えで批判されたのは当然だろう▼東京への一極集中、地方からの女性人口の流出、進む少子化。これらの問題を「まとめて解決だ」と言わんばかりの安易な内容に、めまいがした。案をつくった内閣府で疑問の声は出なかったのか▼ニッセイ基礎研究所の天野馨南子(かなこ)さんは「地方創生の致命的盲点」を分析した論文で、「若い世代に選ばれる労働市場」をつくる重要性を説いた。結婚しても一人でも、そこで暮らしたいと思える仕事や文化があるかどうかが大切だ▼今の女子学生たちは「出産適齢期」を強く意識し、必要以上におびえている印象がある。昨日のオピニオン面で、学識者がそう語っていた。ちまたには「若年女性が少子化政策のカギを握る」といった報告書などがあふれている▼ケチな制度案は撤回されたが、女性たちの心境を思うと胸が痛む。結婚も出産も居住地の選択も、個人の自由である。改めて言うのも悲しいが。