2024年3月26日 5時00分

おいしくて楽しい給食は

 小学生のころ、給食が苦手だった。照り焼きの鶏肉は皮の部分が食べられない。人気のカレーも野菜がだめで、無理やり牛乳で飲み込んだ。残すと先生に叱られ、居残り(いのこり)を命じられた。嫌いな食べ物が皆無(かいむ)のいま、あの苦行(くぎょう)は何だったのかと思う▼くらし面の「完食指導」を考える連載で、給食を無理に食べさせる指導が一部で残っていると知った。完食はあくまで結果であり、目的にしてはいけない。食の現代史が専門の藤原辰史(ふじはら たつし)さんの言葉に同意する。食品ロスを避けるなら子どもに合わせて盛りつけるなどの工夫もできる▼完食へのこだわりを調べていたら、米国の救援物資で給食が再開された戦後の記録があった。視察に来た米軍の担当者に、学校側が「占領軍の好意なので贅沢(ぜいたく)を言わず、なるべく残さない」と指導方針を伝えた。すると逆に「子供の自由に任すべきだ」と諭されたという▼ところが後日、視察に来た別の米軍将校は、食べ残しを見て「欲しくない者には食べさせなくてもいいと言うのは以(も)っての外だ」と憤慨した様子が記されている。現場は混乱した(1962年発行『学校給食十五年史』)▼当時は同じものを食べることで「平等感」を与える効果もあったという。一方、食糧難のなか、一番の目的は栄養の確保だった▼戦後80年近くたったいまも、給食以外で満足に食事がとれない子がいる。子どもの8、9人に1人が貧困状態にあるという。おいしい食事を十分に楽しく食べさせてあげたい。切に思う。

もって‐の‐ほか【▽以ての外】 [名・形動] 1 とんでもないこと。けしからぬこと。また、そのさま。「—な(の)振る舞い」 2 予想を越えて程度がはなはだしいこと。また、そのさま。 「事の由を人の風説 (うわさ) に伝え聞て、—なる大腹立」〈