2024年3月21日 5時00分

大人になるって何だろう?

 大人になる、って何だろう。物分かりがよくなって、ケンカをしないことだろうか。あるいは何でも自分でできて、誰かに迷惑をかけないことだろうか。四国・松山の弁護士、射場和子(いば わこ)さん(59)にお会いして、そんなことを考えた▼彼女の事務所にある日、5歳の男の子がやって来たという。お母さんとの相談が終わり、帰るときのことだった。「次に来るときは、もっと大きくなっているかな」。そう言われて、男の子はにっこりし、大きく手をあげた。「やさしくなるよー」▼その瞬間、まるで魔法使い(まほうづかい)が杖(つえ)をふり、魔法をかけたようだったと射場さんはふり返る。「彼にとって、大きくなることは、やさしくなるということ。私には衝撃でした」▼誰もが年を重ねるごとに、やさしさを増す社会があったら、どうだろう。想像してみる。金メダルをとれるようになるのも、勉強ができるのも素晴らしい。だけど、そうでなくてもいい。何かができる、できないに縛られた生き方は、窮屈でたまらない▼かつて射場さんは、IT関係の会社の経営者だった。忙しすぎて病気になり、「逃げ場」を求めるように法律の勉強を始めたそうだ。司法試験に受かったのは12年前、47歳のときである。弁護士として、性暴力の被害者の支援や、ジェンダー問題に取り組んでいる▼松山は、小雨が降っていた。傘を開いて思う。人は何歳になっても、大人になれる。どこまでも、やさしくなれる。大人とは、そう信じ、もがき続ける存在だろうか。

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