2024年3月20日 5時00分
マイナス金利の解除
アンタら、ゆうとくけどな、ワシらは泣く子も黙る(なくこもだまる)金貸し(かねかし)なんやで――。かつての人気漫画『ナニワ金融道』に出てくる金融業者の決めぜりふである。彼らはあの手この手の知恵を絞って、金もうけに奔走する。得意技(とくいわざ)のひとつは金利に絡む怪しげな錬金術(れんきんじゅつ)だ▼たとえば、若手社員がにこやかに顧客(こきゃく)に語りかける。「今日は特別に、年利12%の特別プランを用意します」。顧客たちが喜ぶと、社員たちはほくそ笑む。融資のやり方次第で、実質(じっしつ)金利を4割近くに上げる阿漕(あこぎ)な手法(しゅほう)があるからだ。「金利のマジックやな」▼利子(りし)は、お金が自分でお金をかせいでくれる。欲望にまみれた人間の業を「恐ろしいほどに炙り出す(あぶりだす)」と作者の青木雄二(あおき ゆうじ)さんは指摘した。『罪と罰』のラスコーリニコフが高利貸(こうりがし)の老婆(ろうば)を殺めた(あやめた)のも、そんな理由ではなかったか▼ただ、別の見方をすれば、豊かさをもたらす便利な仕組みでもある。私たちが住宅ローンを組むときにも、老後の年金を得るときも、利子は大事な役目を担って(になって)いる。明もあれば、暗もある(めいもあれば、くらいもある)。それが資本主義の本質なのだろう▼日銀がマイナス金利政策の解除を決めた。実に17年ぶりの利上げだという。これまでは、利子が利子でないような異常な状態だったわけである。日本経済の正常化への一歩なのだと聞き、半分、うなずく▼「泣く子も黙る」かどうかは分からないけれど、日々の暮らしに必ずや影響を及ぼす決定に違いない。私たちのお金はどうなるのか。心配しつつ、刮目相待(かつもくそうたい)。
あこぎ 【阿漕】 ■一■ (名) 三重県津市の海岸の辺りの地名。昔,伊勢神宮に供える魚をとるための禁漁域であった。漁師が密漁して捕らえられたという話が謡曲「阿漕」などにあるが,「古今六帖 3」の「逢ふ事を阿漕の島にひく網のたび重ならば人も知りなむ」に基づく後世の付会とされる。「阿漕が浦」「阿漕の島」などと和歌に詠まれた。((歌枕)) ■二■ [1][0] (形動)[文]ナリ 〔■一■ の歌・伝説から,しつこくずうずうしい意を生じたもの〕 (1)貪欲で無情なさま。強欲であくどいさま。「―なかせぎ方」「―な商売」 (2)繰り返すさま。しつこいさま。「阿漕の海士(アマ)の―にも過ぎにし方を思ひ出で/浄瑠璃・丹波与作(下)」