2024年7月10日 5時00分

明治時代の富士登山(ふじとざん)

 明治時代に夏の富士山(ふじさん)を登った英国外交官アーネスト・サトウは、山頂からの眺めを絶賛(ぜっさん)した。「まさに壮麗(そうれい)の極みといってよい。(略)筆舌(ひつぜつ)に尽くしがたいほどすばらしい」。欧米人向けの旅行ガイドを執筆し、登下山(とうげざん)ルートや植生(しょくせい)などを解説している▼手記(しゅき)をまとめた『アーネスト・サトウの明治日本山岳記』にある教訓は、150年近くたっても変わらない。「時間との競争」で登ることへの抵抗は、今なら弾丸登山(だんがんとざん)の防止か。「暖かい服をふんだんに」は、軽装で登る危険への警告だ▼おやと思った情報も。富士山頂の山小屋(やまごや)で、食事付きの宿泊代が日本人は30銭(せん)、外国人は50銭。理由は書かれていないが、外国人向けの「二重価格」だったのだろう。当時の経済格差からみれば、控え目(ひかえめ、moderate)な料金差だったかもしれない▼こちらの二重価格はどうか。世界遺産の姫路城(ひめじじょう)について兵庫県姫路市が、外国人観光客の入城料を高く設定する検討を始めた。金額は未定(みてい)だが、市長は「外国人30ドル、市民5ドル」とも言及。現在は18歳以上1千円で、30ドルだと4倍以上になる。保存や修復にあてるという▼円安で訪日客(ほうにちきゃく)が急増(きゅうぞう)したとはいえ、ここまで来たか。飲食店などでもみられるようになったが、最近の二重価格には危うさを感じる。そもそもどうやって、日本人と外国人を見分けるのだろう。外見や言語ではわからない▼訪日客から割増料金(わりましりょうきん)を取る時代に入ったのか。寂しさも覚えるのは、経済力が落ちたことへの感傷なのかもしれない。

弾丸登山(だんがんとざん)とは、休憩や宿泊をほとんど取らずに、短時間で一気に登山をすることを指します。具体的には、夜間に出発して早朝に山頂に到達し、日の出を見た後に下山するケースが多いです。特に富士山などでは、このような登山スタイルが人気です。