2024年7月8日 5時00分
自衛隊と特定秘密
旧ソ連時代の有名なジョークがある。「フルシチョフ第一書記はバカだ」と市民が塀に落書き(らくがき)をした。すぐさま逮捕され、裁判で懲役11年の刑を宣告された。1年は国家の財産を汚した罪で、あとの10年は国家機密漏洩(ろうえい)罪で――▼それは機密だと指すことで、落書きの内容は真実だと国そのものが認めてしまう。何度聞いてもニヤリとさせられる珠玉(しゅぎょく)の出来ばえだ。それに比べて、同じ「国家と機密」の話でも、こちらはちっとも笑えない▼海上自衛隊の護衛艦で、資格のない隊員にも「特定秘密」の情報を扱わせる違法な運用が広く行われていた。陸自や空自、防衛省の背広組(せびろくみ)でも同様のケースがあるらしく、まったく底なしの状態だ▼海自では10年近く続いてきた恐れがあるという。つまりは、2014年に特定秘密保護法が施行(しこう)された直後から、そんなありさまだったのか。だとすれば、国民もずいぶんと見くびられたものである▼そもそも、最前線の現場で「資格がなくたって構わない」とされるような情報ならば、特定秘密に指定する必要はあったのか。防衛省(ぼうえいしょう)の調査結果を待つしかないが、何しろ「何が秘密かは秘密」という仕組みだ。十分な判断材料が出てくるかはあやしい▼先の通常国会では、特定秘密保護法の枠組み(わくくみ)を企業などに広げた新しい法律が成立した。己のずさんさを知りながら、防衛幹部たちはいったいどんな思いで審議を見ていたのか。新法は来春までに施行(しこう)される。たちの悪いジョークとしか思えない。
フルシチョフ Nikita Sergeevich Khrushchyov [1894〜1971]ソ連の政治家。スターリン死後中央委員会第一書記となり,スターリン批判を行い,平和共存外交・党内民主化を提唱(ていしょう)。アメリカとの冷戦緩和に努めたが,中ソ対立を招き,農業政策にも失敗,1964年失脚した。
海上自衛隊の護衛艦隊の10隻以上の艦艇で、安全保障に関わる機密情報「特定秘密」を、資格がない隊員に扱わせるなど違法な状態が続いていたことがわかった。10年近く常態化していた恐れもあり、海自トップの酒井良(さかい りょう)・海上幕僚長は引責辞任する意向を固め、木原稔(きはら みのる)防衛相に伝えた。防衛省は関係者の処分を検討している。
みくび・る 30【見縊る】 たいしたことはないとあまく見る。あなどる。見くだす。「相手チームを―・って惨敗する