2024年7月6日 5時00分

海自接待疑惑

 潜水艦は「鉄のクジラ」と呼ばれる。乗組員たちは「クジラ乗り」である。水中では、誰か1人の小さなミスでも、全員が命を失いかねない。一蓮托生(いちれんたくしょう)、「乗組員は家族」と言われるほど、濃密な人間関係にあるそうだ▼だから、ずっと表に出なかったのだろうか。川崎重工業(かわさきじゅうこうぎょう)が長年にわたって、架空取引(かくうとりひき)で裏金をつくり、海上自衛隊の潜水艦乗組員に物品(ぶっぴん)を贈っていた疑惑が明らかになった。川重は、希望する物品リストを海自側から受け取っていたという▼家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」、上官が部下に贈るための家電製品、乗組員全員の「おそろいのTシャツ」……。疑似家族の維持に必要なものだったということか。贈る方も問題だが、受け取る方もひどい▼裏金は、潜水艦の建造費などに上乗せして(うわのせして)防衛省に請求され、最終的に税金から出されていた可能性も指摘される。増えるばかりの防衛費が、回り回って自衛隊員の私腹を肥やして(こやして)いたとすれば、誰もが納得できない▼かつて海自の体験コーナーで、潜水艦の3段ベッドに横にならせてもらったことがある。その狭さ、圧迫感は驚きだった。息が詰まるような密閉空間(みっぺいくうかん)で作業に追われ(おわれ)、長期の集団生活を強いられる。その苦に耐えるのは、よほどの強い使命感があってのことだろう▼実際に、潜水艦の隊員は海自全体の数%に過ぎない。希望して、選ばれて、特殊な任務に就くエリートたちである。それがどうしたことか。クジラ乗りの矜恃(きょうじ)はどこにいったか。

▸ 私たちは一蓮托生だ⦅行動[運命]をともにしている⦆ We are all in the same boat. / We are to share the same fate.

きょうじ 1―ぢ 【矜持】・―じ 【矜恃】 自信と誇り。自信や誇りを持って,堂々と振る舞うこと。きんじ。プライド。「学生としての―を持て」