2024年7月28日 5時00分

地球、メートル、パリ五輪

 1メートルという単位は、パリで生まれた。フランス革命さなかの18世紀末。世界の単位を統一しようと、政治家のタレーランが唱えた(となえた)そうだ。基準にしたのは地球の大きさである。北極から赤道までの距離の1千万分の1を1メートルとする――その発想の壮大さには驚かされる▼測量(そくりょう)の旅は過酷をきわめた。ギロチンにかけられそうになったり、牛小屋(うしごや)に寝泊まりしたり。パリを通って南北の海岸に至るまでの子午線(の長さを測り、全体を算出したという▼ゆかりの地で繰り広げられるのは1メートル、いや1ミリという極小(ごくしょう)単位の差をかけたドラマであろう。パリ五輪が始まった。開会式で選手たちはセーヌ川を船で下ると聞いていたので、各国1隻の割り当てかと早合点していた。考えてみれば、その必要はあるまい▼さまざまなユニホームの、さまざまな肌の色の選手が、同じ船で隣りあって笑顔を見せる。それは何か新鮮で、祝祭にふさわしい光景だった。「五輪の魔法を世界と分かち合うのに、パリほどふさわしい場所はない」とIOCのバッハ会長は語った▼でも魔法は魔法であって現実ではない。五輪に夢中になる世界の姿は、この瞬間も命が脅かされているウクライナやガザの人たちの目にはどう映るか▼地球1周は、ほぼ4万キロ。つまり私たちは、どんなに遠い国の人々とも、約2万キロ以上離れて生きることは出来ない。その思いのほかの「近さ」を胸に刻みたい。200を超える国や地域の選手が集まり、夜空に聖火(せいか)が灯(とも)った。

ギロチン 〖断頭台〗a guillotine | ɡɪ́lətìːn |. ▸ 彼はギロチンで処刑された He was sent to the guillotine.

しごせん 02【子午線】〔「子」は北,「午」は南の意〕 ① 天球の北極および南極と,ある地点の天頂とを連ねた天球上の大円。 ② 地球上では,北極と南極を結ぶ大円。経線。