2024年7月24日 5時00分

史上最大級のシステム障害

 孔子(こうし)の弟子(ていし)、子貢(しこう)が楚(そ)の国を旅していたときのことだ。年老いた農夫(のうふ)が1人で、瓶(かめ)に水をくみ、畑にまいている。ひどく労力ばかりが多く、仕事の能率が悪いのを見て、子貢は声をかけた。「水をくむならば、いい機械がありますよ」▼農夫は答えた。「私も知っている。だが、機械というものを使うと、機心(きしん)が出る」。何かと機械に頼り、効率ばかりを追いかけるようになるのが「機心」である。そんなカラクリの心は不純だと農夫は言った。『荘子(そうし)』が伝える有名な故事(こじ)だ▼さて、ここで話は先週に飛ぶ。「ウィンドウズ」が入ったパソコンなどが、世界各地で相次ぎ異常停止した問題である。影響は850万台に及び、5千以上の航空便が欠航(けっこう)したというから驚く。史上最大規模のシステム障害との見方が広がる▼筆者のパソコンも突然、画面が真っ青になり、止まった。原因は聞いたこともない米企業のソフトの不具合と知り、さらに驚く。多くの人が意識せぬところで、世界は無数のネット上のつながりに支えられ、動いている▼それは便利で、もはや無くてはならないものだけれど、ある日、一瞬にして、すべてが崩れる危うさも秘める。そんな不安な現実に思う。私たちはいま、「機心」に引っ張られすぎてはいないか▼荘子の話には続きがある。農夫の言葉を聞き、孔子は言った。「彼は一を知りて二を知らず」。機械に頼りすぎず、かといって拒否もせず、よく自然と生きるべし。古(いにしえ)の賢人(けんじん)は、そう教えてくれている。

からくりは、 仕組み、システム全般の俗称。 日本における古い時代の機械的仕組みのこと。漢字では絡繰、唐繰、機巧、機関、機、械、関など。本項で詳述する。 江戸時代の見世物、覗機関(のぞきからくり)の略称。

「機心」(きしん)とは、古代中国の哲学者である荘子(そうし)が提唱した概念の一つです。機心は、「利己的な思考」や「計算高い心」を指し、自己の利益を追求するために他者を利用したり、状況を操作しようとする心の状態を意味します。荘子は、このような機心を避けることが重要であり、自然の流れに従い、無為自然(むいしぜん)を重んじる生き方を推奨しました。