2024年7月23日 5時00分
バイデン氏の撤退表明
ユズリハは、高さが10メートルほどにもなる常緑高木(じょうりょくこうぼく)である。新しい葉が生えて(はえて)くると、古い葉は譲るように垂れ下がる(たれさがる)。新葉(しんば)が十分に成長すると、ポトリと落ちる。譲葉(ゆずりは)などと書き、親子草(おやこぐさ)との別称も持つ。新旧交代(しんきゅうこうたい)の鮮明さからの命名らしい▼子どもが成長すると、親が道を譲り、退く(しりぞく)。つつがなき世代の交代は、子孫の繁栄につながる喜ばしいこと――。古人(こじん)はそう考えたのだろう。縁起のよい植物として、正月の飾り物としても各地で珍重(ちんちょう)されてきた▼さて、こちらはどうだろう。バイデン氏が、米大統領選からの撤退を表明した。後継候補には副大統領のハリス氏を推す(おす)というが、引き際(ひきぎわ)は適切だったか。新しい葉の成長は大丈夫なのか▼老いを問われ、迷いに迷っての判断だったに違いない。何しろ直前まで、選挙戦を続けると強調していた。現地の報道によると、発表のわずか1分前まで、高官らにも知らせていなかったとか▼言い間違いの多さが、大統領として大きな問題だったとは思わない。首を捻(ひね)ったのはむしろ、豊富な政治経験がありながら、その英知を問われた際の言動だ。トランプ氏に「君のモラルは野良猫なみ」と意地になる様は、子どものけんかと言ったら失礼か▼とはいえ歴史的な決断に、『古今和歌六帖(こきんわかろくじょう)』の一首を思う。〈旅人に宿かすが野のゆづる葉のもみぢせむよや君を忘れむ(たびびとにやどかすがののゆづるばのもみぢせむよやきみをわすれむ )〉詠み人知らず。常緑のユズリハが紅葉(もみじ)する世ならば君を忘れる。つまりは、あなたを忘れない、との反語を込めた歌である。