2024年7月19日 5時00分
太平洋・島サミット
仕事を終えてビールをぐいっとあおる。美しい太平洋に浮かぶパラオ共和国では、その行為を「ツカレナオース」と呼ぶ。疲れ治す。れっきとしたパラオ語である。いまの単語の4分の1は、日本語に由来するというから驚く▼先の大戦が終わるまでの約30年間、日本は一帯を統治した。パラオに南洋庁を置き、日本語教育を義務づけた。その厳しさは「人間の子をあつかっているとは思えない」。憤慨する手紙を、のちに作家となる中島敦が妻に送っている。南洋庁の役人だった▼ブタイ(部隊)、ケンコツ(拳骨〈げんこつ〉)といった言葉もあるのは、鉄拳の飛び交う日常があったからだろうか。日本語だけではない。スペイン語、ドイツ語、英語。占領者は戦争とともに次々と入れ替わった。小さな島の言葉に翻弄(ほんろう)の歴史が刻まれている▼そのパラオを始めとする太平洋の島々が、再び覇権争いの舞台にされている。中国はソロモン諸島と安保協定を結び、米国はパラオでレーダー整備を進める。その先に待つのはいったい何か▼18の国・地域と日本が参加した「太平洋・島サミット」が、きのう閉幕した。「国の大小や力にかかわらず、全ての国の権利、自由がルールによって守られることを認識した」。首脳宣言に込められた思いをかみしめたい▼この地域で日本は地道な支援を重ねてきた。だからこそ、米中とは違う目線で出来ることはあるだろう。コマッテル(困ってる)、タスケル(助ける)。これもパラオ語になった言葉である。