2024年1月21日 5時00分

月着陸、成功す

 「あのクレーターのすぐ先にしよう」。アポロ11号の月着陸地点(つきちゃくりくちてん)は、アームストロング船長が「静かの海」を飛びながら、安全な場所を必死に探して決めたものだった。地球の管制室では当初、正確な地点が分からず、司令船からも六分儀をのぞいて仲間を捜索したそうだ▼それから55年。「降りられるところ」ではなく「降りたいところ」へ。そう掲げた(かかげた)日本の探査機SLIM(スリム)が、月着陸に成功した。生中継されていた映像では、航跡が計算どおりのきれいな曲線を描いていた。すばらしい、の一言に尽きる(Wonderful is the only word I can use to describe it.つきないとも同じです。)▼だが不思議なことに、きのうの未明に始まった会見では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の表情はどこか硬かった。探査機の太陽電池がうまく働いてくれず、そのために満面の笑みとはならなかったようだ▼内蔵する(ないぞうする)電池をかわりに使い、まずは貴重な(きちょうな)飛行データを地球に送信させる。予定していた月面調査の一部は、電池切れで出来なくなるかもしれないという▼遠い宇宙のかなたから眺めれば、暗闇にぽつりと浮かぶ「宇宙船地球号」も、いまのSLIMと似た境遇にあるのだろう。乗組員(のりくみいん)はあれもこれもと欲しがるが、積んで(つんで)いる資源には限りがある。ならばそれをいかに守り、賢く使うか。同じ課題を負っている▼餅つきうさぎの耳の辺り、「神酒(みき)の海」近くにSLIMはたたずむ。月を見上げる楽しみが一つ増えた。数日後の満月には、未来の天文学者たちが、幼い心いっぱいに想像力を膨らませることだろう。

日本の探査機SLIM.png

太陽電池の発電がないSLIMは、バッテリー電力に依存しており、その電力はいずれ尽きる。そうなると、SLIMは指令を受けることも、地球と交信することもできなくなる。

技術者たちは現在、データ収集活動を優先させている。バッテリー電力を温存するために、ヒーターの電力を切るなどの延命作業を行ったうえで、撮影した画像をダウンロードしたり、着陸のためのナビゲーション・データを優先的に取得している。

SLIMとの交信が途絶えて(とだえて)も、JAXAはミッション継続に努める方針。太陽電池が発電していないことについて、想定の方向をSLIMが向かなくなった可能性が考えられるといい、データの分析を進めている。月面に差す太陽光の角度が変われば、SLIMの太陽電池が起動する可能性もあるという。