2024年1月1日 5時00分

新春の緞帳

どんちょう ―ちやう 0【緞帳】a drop curtain ① 現代の劇場で,舞台と客席とを仕切る,地の厚い絵入りや模様入りの上下に開閉する幕。緞帳幕。 →引き幕

 開演を告げるブザーが鳴る。観客が席につき、劇場内の騒めき(ざわめき)が静まっていく。これから始まる物語に期待が高まるなかで緞帳(どんちょう)が上がる。この美しい織物は日本で独自(どくじ)に進化し、花鳥風月(かちょうふうげつ)などを繊細(せんさい)に描く芸術性で存在感を示してきた▼緞帳製作で大手の川島織物セルコンは、京都で川島甚兵衛が呉服業として始めた。今年で181年になる。歌舞伎座や国立劇場など織り上げた緞帳は2500枚以上に及ぶ。昨年末に工場を訪ねると、幅24メートルの巨大な織り機に5人が並んで色鮮やかな新作に取り組んでいた▼縦糸を張った下に絵図を置いて横糸をくぐらせ、染めた横糸だけで模様を描く。西陣織(にしじんおり)の最高峰とされる「綴織(つづれおり)」の技法だ。職人(しょくじん)は自分の爪をギザギザに削り、溝(みぞ)で横糸を手前にかき寄せる。完成まで数カ月から1年以上かかることも▼同社の辻本憲志(つじもと けんし)さん(59)によると、日本古来の綴織(つづれおり)を芸術の域まで高めたのは2代目だという。明治期に訪欧(ほうおう)し、ゴブラン織の工場や室内装飾を視察した。綴織でもできると信じて織り機の改良などを重ねた▼2代目が手がけた綴織は、オランダ・ハーグで国際司法裁判所が入居する「平和宮((へいわきゅう)」の壁面(へきめん)をいまも飾る。桜やクジャク(孔雀)など日本の風景に平和の願いを込めた会議室は、「日本の間」と呼ばれる▼2024年の幕が開いた。世界では戦争が続き、国内政治は裏金疑惑(うらきんぎわく)で揺れる。平和とは、正義とは何かをしかと見定めるべき年である。緞帳は上がり、舞台と客席を仕切るものはない。

愛知県新御園座ー緞帳.png 川島織物セルコン.png