2023年4月28日 天下の義人、茂左衛門

 〈天下の義人(ぎじん) 茂左衛門(もざえもん)〉。こう聞いてピンと来るのは、群馬県にゆかりのある方だろう。郷土(きょうど)の名所や偉人などをよんだ「上毛かるた(じょうもうかるた)」に、地元の人は幼い頃から親しむ。有名な札は〈つ つる舞う形の群馬県〉だろうか。次の〈て〉に茂左衛門は登場する▼この人物をもとにした短編小説「茂左」が第66回農民文学賞に選ばれた。江戸時代、県北部にあった藩で苛政(かせい)がしかれた。重い年貢((ねんぐ)に苦しむ村々を代表して、茂左衛門は江戸で将軍家への直訴(じきそ)におよぶ。藩主は領地をとりあげられたが、茂左衛門も磔(はりつけ)になる▼地元の英雄伝説(えいゆうでんせつ)をもとに、小説では主人公を人間くさく仕立てた。村の中で不満をまくしたて、売り言葉に買い言葉で訴え役を押しつけられる。覚悟を決めながらも、命が助からないかと願う。これで深みを増した▼著者の須藤澄夫(すとう すみお)さん(74)は群馬県の生まれ。いつか作品にしたいと、構想を温めて(あたためて)きたという。「世の中に怒っていいんだよ、と若い人たちに書き残しておきたくて」▼統一地方選で少しは新しい風も吹いたけれど、政界を見渡せば世襲議員が幅をきかせている。赤ん坊のおむつにも親の葬式にも消費税がかかる。あれは年貢じゃあるまいか、という▼「変わっちゃーいねえな(略)江戸時代のアレは非道(ひど)くて、今の世のコレは非道かーねえんかい」。作中で現代によみがえった茂左はこう語る。未来を描く時、知るべき物語(story)は歴史(history)の中に埋まっているのかもしれない。


上毛かるたとは?

上毛かるた(じょうもうかるた)は、1947年(昭和22年)に発行された群馬を代表する郷土(きょうど)かるたです。全44枚あり、群馬県の名所旧跡や輩出した人を札(さつ)としています。ちなみに『上毛』とは群馬県の古称です。

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