2023年4月26日 スーダンからの退避
外国で飛行機が落ちる。「乗客に日本人はいませんでした」とニュースキャスターが〈嬉(うれ)しそうに〉繰り返す、と曲「JAM」で歌ったのはザ・イエロー・モンキーだった。〈僕は何を思えばいいんだろう 僕は何て言えばいいんだろう〉▼突然起きた厄災(やくさい)で、身近な存在の安否(あんぴ)を気づかうことは、人の自然な感情である。よく似た言い回しは海外の報道でもあると聞く。しかし、それだけではこぼれ落ちてしまう大事なものが、確かにある▼戦闘が続くスーダンの首都から、退避を望んでいた日本人やその家族ら58人が国外に逃れた。避難先で座り込む子供の小さな後ろ姿の写真を見た。胸が苦しくなる。逃避行(たいひこう)の長い道のり(journery)は、どんなに不安だったか。まずは全員が無事であったことを喜びたい▼同時に、スーダンの人々を忘れたくはない。国連によれば、4800万もの人口を抱える国である。国軍と準軍事組織が出しぬけに(だしぬけに)争い始め、外国人は辛くも脱出した。その光景を横目に祖国を離れることも出来ぬ人たちは、厳しい状況に置かれたままである▼「首都の市民は食料も水もなく取り残され(leave* … behind)、もはや限界だ」。そんな声を海外メディアが報じている。路上には遺体が放置されたままで、武装兵が店舗や住宅を略奪しているという▼ウクライナでの戦争が続くなか、スーダンでも戦闘が始まり、命が奪われる。争いをやめられない人間という生き物の愚かさを嘆く歌声が、どこからか聞こえる。〈僕は何て言えばいいんだろう〉
2023年スーダンでの戦闘とは、2023年4月15日からスーダンで継続中の、スーダン軍(英語版)と準軍事組織である即応支援部隊(RSF)との間の戦闘。
- 背景
- スーダンでは2021年、クーデターで軍が統治の実権を握り、民政移管に向けて協議が進められていたが、RSFと国軍との統合について、両者が対立していた。
- RSF
- RSFは、ダルフール紛争で黒人を虐殺するなどしたアラブ系遊牧民の民兵組織ジャンジャウィードが2013年に改編されて成立したとされ、兵員は10万人規模と推定されている。
- 経過
- 4月15日
- RSFの兵士らがスーダン各地で攻撃を行い、ハルツーム国際空港や大統領官邸を占拠したと発表した。また、メロウェの空軍基地でエジプト空軍の兵士がRSFに降伏し、Mig-29戦闘機1機が鹵獲(ろかく)された。国軍司令部は声明で、空軍の戦闘機がRSFの徹底捜索作戦を実施すると予告した。戦闘のきっかけについて、RSF側はハルツーム郊外にある部隊の基地が国軍に攻撃されたことへの反撃だと主張している。一方で、国軍側も国際空港や大統領官邸を支配していると訴え、RSFがハルツーム南部で国軍に対して攻撃をしかけようとしたと主張した。
- 4月15日
RSFとは、Sudanese Rapid Support Forces(スーダン・ラピッド・サポート・フォース)の略称です。これは、スーダンの政府が2013年に設立した、治安維持および反乱勢力に対する軍事組織です。元はジャンジャウィードと呼ばれていた民兵組織で、ダルフール地域において非常に残忍な行為を行ったことでも知られています。RSFは、スーダン政府によって設立・運営されており、非常に強力な権限を持っていますが、国内外からは人権侵害や戦争犯罪を犯しているとして批判を浴びています。
スーダンで軍と戦闘を繰り広げている準軍事組織「即応(そくおう)支援部隊(RSF)」は、イランの革命防衛隊と同様、軍がクーデターを起こしても、それを迎え撃てるよう想定された「第2の軍隊」だ。
軍と互角に戦える装備や訓練を施されている。
◇総兵力10万
RSFの最近の総兵力は10万人と報じられてきた。スーダン軍は陸軍の10万人が圧倒的で、空軍(くうぐん)は3000人、海軍は1000人。兵力数を見れば両者は互角(ごかく)のはずだった。
2019年まで30年に及んだバシル独裁政権が構築した「カウンター・クーデターのための暴力装置」だったが、最後は軍と手を組み権力を奪った。この協力をきっかけに、RSFは軍から大量の「出向者(しゅっこうしゃ)」を受け入れ、スーダン全土へ急速に膨張する組織を整えた。双方の総兵力数には重複があったとみられ、15日の戦闘勃発の翌日、軍はこうした出向者に「原隊復帰」を命じた。現在の正確な勢力比は分かっていない。
13年に発足したRSFの源流は、西部ダルフール地方で住民弾圧を担った(になった)民兵組織「ジャンジャウィード」だ。03年から激化したダルフール紛争で「スーダン解放軍(SLA)」や「正義と平等運動(JEM)」など反政府勢力に対し、軍の先兵となって戦った。軍による空爆の援護を受けつつ、ジャンジャウィードはダルフールの町や村を略奪し蓄財した。バシル大統領の個人的な保護を受け、RSFを率いるダガロ司令官の一族は今やダルフールの金鉱(きんこう)の利権を握り、幾つも企業を経営する富豪となっている。
◇他国の内戦で稼ぐ
さらに、RSFは過去10年、海外との関係を強化した。サウジアラビアのムハンマド皇太子が介入し15年から激化したイエメン内戦に数万人のスーダン人傭兵(ようへい)を送り込み、サウジを支えた。
リビア内戦では、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」と関係を深め、リビア東部のハフタル派のため傭兵を送り込んだという。イエメンやリビアの最近の内戦沈静化はこうした「RSFの資金源」に影響を与え、ダガロ氏に焦りが生まれていた可能性もある。
ロイター通信は19日、軍の空爆を受けたRSFは市内の拠点を放棄し「住宅街に紛れ込んでいる」と伝えた。ダルフール紛争以来磨いてきたゲリラ戦で軍に対抗する構えだ。
しかし、兵力も資金も「第2軍隊」であるRSFは、国庫(こっこ)を握る軍に対し、時間の経過とともに不利になる。サウジやリビア、ロシアなどこれまで培ってきた「外部勢力の支援」が頼みの綱だ。