2023年4月25日 牧野富太郎の書斎

 植物学者の牧野富太郎は安月給(やすげっきゅう)だった。買いあさった膨大な(ぼうだいな)蔵書(ぞうしょ)のために大きな家をえいやと借りては、やっぱり家賃が払えなくなる。そこで新たな家を探しに行く。その繰り返しだったと、娘さんがふり返っている▼腰を落ち着かせたのは、いまの東京・練馬(ねりま)だった。跡地(あとち)の庭園(ていえん)に書斎が再現されて、今月から公開されている。展示品は約4万5千冊の蔵書の1割にも及ばないが、壁は書棚で埋めつくされ、畳には本や標本が積みあがる▼植物図鑑の類いはもちろんのこと、万葉集(まんようしゅう)や洋書(ようしょ)に至るまで、古今東西(ここんとうざい)の本があると言っても大げさではあるまい。同じ植物の標本をたくさん集めて「個体変異を確かめようとした」ように、同じ本でも版が改まるたびに買ったというから、凄まじい(すさまじい)▼20歳(はたち)のころに、人生の心得15カ条を記している。その一つが〈書籍の博覧を要す(ようす)〉。植物に関わる本は、ケチケチせずに手に入れて読むべしとの意を込めた。同時に〈書を家とせずして友とすべし〉とも書いている。本の内容を妄信(もうしん)してはならない、と▼小学校も退学し、独学で歩んだ人ゆえだろう。貪欲(どんよく)に活字を吸収しながら、野山(のやま)で目にした実際の草花(くさばな)の姿を大切にする。知識と体験の双方を土台に新しい世界を切り開く。学ぶとは、かくありたいものだ▼きのうは牧野の誕生日にちなんだ「植物学の日」であった。自らを「草木の精」と称した牧野は、山をなす書籍の一つひとつに挑み(いどみ)、登り詰めた。孤高(ここう)の山の頂(やまのいただき)に咲く一輪の花を思う。

牧野富太郎(まきの とみたろう、1862年5月22日(文久2年4月24日) - 1957年(昭和32年)1月18日)は、日本の植物学者。高知県高岡郡(たかおかぐん)佐川町(さかわちょう)出身。位階は従三。

いよいよ今週スタートした連続テレビ小説『らんまん』。主人公 万太郎のモデルとなっているのが、高知出身の植物学者、牧野富太郎博士です。「植物は自分の恋人」と話し、植物採取にも正装して出向いたという博士の“牧野イズム”は多くの人に影響を与えてきました。 11歳で博士の弟子となった植物学者の小山鐵夫(てつお)さんにお話を聞きました。

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