2023年4月23日 赤いランドセル
緑に紫、黄色とカラフルなランドセルが百貨店の売り場に並んでいた。来春の入学準備がもう始まっているのだとか。赤いランドセルを眺めていたら、店員に「お嬢さんですか」と話しかけられた▼何年も昔の、我が子のランドセル選びを思いだした。入学前の兄についてきた幼い次男は真っ赤なランドセルを背負い、これにしたいとご満悦。つい「女の子がよく選ぶ色かもよ」と言ってしまったのだ。後悔が残る▼「男の子/女の子だからと思うことがあるか」。小学5、6年生を対象にこんな質問をしたところ、4割が「そう思う」と答えたと、東京都が先月公表した。この子どもたちは、親や教師から「男の子/女の子なんだから」と言われた経験を持つ割合が高かったそうだ▼固定観念は時に現実を蝕む(むしばむ)。「女性は数字(すうじ)に弱い」という偏見を意識しながら数学試験に臨んだ女性は、点数が低くなるという実験結果がある。能力の発揮を妨げる(さまた・げる )「ステレオタイプ脅威」と呼ばれる現象だ▼性別だけでなく、人種や年齢などでも同様の結果が出るという。提唱(ていしょう)した社会心理学者クロード・スティール氏は著書『ステレオタイプの科学』で、この脅威が「あらゆる人に何らかの影響を与えている」と述べた。「かばんの色」という些細に(ささいに)思える出来事も、地続き(じつづき)なのだろう▼次男は翌年、灰色のランドセルを選んだ。何げない大人の一言が、もしかしたら子どもの道を狭めていないか。そんなことを思い返してしまう季節である。