4年後の事故現場
白、黄、ピンク。事故現場近くの慰霊碑には色とりどりの花が供えられて(そなえれれて)いた。菓子やジュース、絵本に折り紙も。発生時刻が近づき、周辺のオフィスから昼食に出てきた人々が手を合わせた。初夏のような暑さに、あの日、路上(ろじょう)に落ちていた麦わら帽子を思い出した▼東京・池袋で車が暴走し、3歳の女の子と母親が死亡、9人が重軽傷を負った事故からきのうで4年がたった。妻子を失った松永拓也(まつえ たくや)さん(36)は、現場(げんば)を訪れて「愛してる。お父さんは元気だよ」と声を詰まらせた。車が凶器に変わる恐ろしさを改めて思う▼刑事裁判では、当時87歳の運転手がアクセルをブレーキと踏み間違えたと認定された。慰霊碑前(いれいひまえ)には、高齢とみられる近所の男性が供えた免許返納(へんのう)の通知書も。家族などから返納はもったいないと言われたが、「せめての供養と判断しました」と添え書き(そえがき)があった▼この事故は、高齢運転者による誤操作や逆走の危険性を見直す契機となった。それでも死傷事故は相次ぐ。特に地方で免許を返納した場合は、生きるために必要な別の移動手段が課題だ▼事故以降、交通事故の撲滅(ぼくめつ)に加えて被害者支援も訴えてきた松永さんにとって、SNSなどでの二次被害も深刻だった。愛する家族を失ったうえ、「金や反響目当て」といった中傷による心痛(しんつう)は想像を絶する(ぜっする)▼車とデジタル。どちらの技術も生活を飛躍的に便利にしたが、同時に難問も生んだ。被害者に寄り添いつつ、だれも傷つけない使い方を探すしかない。