2023年10月29日 5時00分
読書週間に
「本の虫」がいるとして、一番騒ぎ出すのは、いつどんな場面だろう。新たな挑戦に一歩を踏み出した春先の教室か。何でも吸収できそうな気分になる。冷房の利いた夏の電車内も捨てがたい。朝日歌壇の1首がかつて詠んでいる▼〈めずらしく寝スマ本本スマ寝本 いつも寝スマ寝スマスマスマ寝〉和田由紀。7人掛けのシートで心地よく揺られながら、居眠りとスマホに挟まれて、3人が本を開く▼でもやはり秋の清冽(せいれつ)な空気の中で、だろう。読書週間となり、恒例の古本市でにぎわう東京・神保町(じんぼちょう)をきのう歩いた。本好きには、じつに楽しく、そして悩ましい催しだ。軒を連ねた出店(しゅってん)をひょいとのぞくごとに、思わぬ本との出会いがある。あれもこれもと目移りし、欲望と闘わねばならない▼買ったとて、すぐ読めるとは限らない。自宅では、寝床の足もとまで未読の山が迫っている。一度読んだ本だって再読したい。以前とは違う発見があるはずだ。でも20代から50代の今までに読んだ本を、同じ時間をかけて読み返すだけで、わが一生はたぶん終わってしまう。ああ嘆かわしい(なげかわしい)▼だが欲望が勝利するのだ。古本市で4冊ほど求め、一つをめくっていたら、買い過ぎを批判する哲学者ショーペンハウエルの言葉に目がとまった▼「書物を買いもとめるのは結構なことであろう。ただしついでにそれを読む時間も、買いもとめることができればである」。やられた。まったく悩ましく、そして楽しいものである。読書というやつは。