2023年10月25日 5時00分
万博の混乱、責任はどこに
ピカソの代表作のひとつ「ゲルニカ」は、1937年のパリ万博(ばんぱく)の展示のために描かれた。ただ、絵の完成は開幕に間に合っていない。スペイン館の入り口に置かれたのは万博が始まってから約1カ月後だった▼絵を見た関係者からは当初、落胆の声も上がったそうだ。もう少し写実的(しゃじつてき)な壁画(へきが)が期待されていたらしい。館内の目立たない場所に移そうとの計画さえ出たという(荒井信一(あらい しんいち)『ゲルニカ物語』)▼ところが、いざ公開が始まると、空爆の悲惨さを伝える絵は、多くの来館者の心をつかんだ。ゲルニカが象徴する反戦と平和は、この年のパリ万博のイメージとなった▼1年半後に開幕が迫る大阪・関西万博は、未来にどう語り継がれるのだろう。会場建設費が1・9倍に増え、2350億円になるという。使われる税金もぐっと増える。物価上昇などが理由というが、打ち出の小槌(こづち)ではあるまいし、「想定外」といえども、ぽんぽん予算を増やせる時代ではあるまい▼驚くのは、海外パビリオンの建設遅れもそうだが、誰ひとりとして自分の責任を認めないことだ。万博協会の事務総長に至っては「責任と言われても何をもっておっしゃるのか」と会見で笑みを浮かべていた。それで国民の理解は得られるのか▼大阪府も市も国も経済界も、いったん立ち止まり、よく話し合われてはいかがか。思い切り簡素化する選択もある。延期論も出ている。後世へのイメージが「負担増」や「無責任」となれば、開催の意義さえ色褪せる(いろあせる)。
- ゲルニカ