2023年10月20日 5時00分
ジャニーズ事務所の改名
米国のある石油大手が、ブランド強化のため新たな社名をつけることにした。コンピューターに意味のない文字列を作らせて発想を広げる。いくつもの候補の中から選んだのは、Encoだった▼ガソリンを売る会社が「エンコ」とは、これいかに。若い方はなじみが薄いかもしれないが、日本でエンコといえば、乗り物の故障を意味する俗語(ぞくご)である。そりゃダメだと差し替えられて、結局「エクソン」に落ち着いた。山崎時男(やまさき ときお)著『オイルマンが書いたマルチ石油学入門』が伝えるエピソードだ▼社名や商品名(しょうひんめい)は最も短い自己紹介文だ。音の響きや伝える意味が大事になる。先日の記事にあった横文字を訳せば「微笑む(ほほえむ)」か。長年の性加害が明るみに出たジャニーズ事務所が「SMILE―UP.(スマイルアップ)」に名を改めた。一人でも多くの皆様が笑顔になれるように、と公式ページは語っている▼被害者への補償に専念し、タレントのマネジメントなどは別の会社が担う(になう)。そちらの名前は、月末までファンクラブで公募しているという▼ネーミングが功を奏した(そうした)例に、ネピアの「鼻セレブ」がある。かつて「モイスチャーティシュ」として店頭に並んだが、いま一つだった。中身は全く同じなのに、改名で売り上げは急増(きゅうぞう)した▼名は変われども中身は同じ――スマイル社や新会社は、そうであっては困る。救済を求める被害者に誠実に向き合い、調査報告書で指摘された社内体質の閉鎖性を改める。信頼の回復は、ようやくそこから始まるはずだ。