2023年10月19日 5時00分

報復の鎖を断ち切る

 痛ましい光景が飛び込んできた。ガザ北部の病院で起こった爆発だ。少女の大きな瞳(ひとみ)から涙がこぼれ、血と泥にまみれた頬(ほほ)に筋をつくる。幼子(おさなこ)を抱く母の表情は凍り付き、ろう人形(にんぎょう、ひとがた)のようだ▼イスラエル側とパレスチナ側。どちらの所業(しょぎょう)かは判然としない。ただ北部には、まだ多くの人々が残っている。地上侵攻が始まれば、同じような悲劇は避けられまい。退避勧告に応じない者はハマス側とみなすと、イスラエル軍は警告したという▼お前はどちらの側に立つのか――。戦争では往々(おうおう)にして踏み絵(ふみえ)が始まり、分断が進む。「憎悪(ぞうお)の連鎖(れんさ)」につながる道だ。病院の光景に怒りを覚える今だからこそ、民族や宗教の壁をこえる動きに目をこらしたい▼米国では先日、ハマスによる同胞(どうほう)の死を悼む(いたむ)ユダヤ人たちが、ガザ侵攻に反対するプラカードを掲げた。「私の悲しみはあなたの武器ではない」。アテネではイスラム教の導師が「暴力も戦争も望まない」と述べた。オランダでは、両者の言語で「平和」と掲げた飛行機が飛んだ▼バイデン米大統領はこれまで人道配慮を求めながらも、イスラエルへの支持を表明してきた。左手(ひだりて)に救急箱(きゅうきゅうばこ)を持ちつつ、右手(みぎて)で猛犬(もうけん)の手綱(たづな)を放す。そんな図に見える▼訪れたイスラエルで、ネタニヤフ首相と何を語ったのか。気にかかるところだろう。でも「今は戦争を止める以外のことについて話しても意味がない」。ヨルダン外相(がいしょう)の言葉が光る。報復(ほうふく)の鎖(くさり)を断ち切らねば。だから声をあげる、小さくても。