2023年10月18日 5時00分

谷村新司さん逝く

 アリスの歌詞のほとんどは、谷村新司(たにむら しんじ)さんが手がけたものだった。「ボクは、言葉を守ってきた」。生前のインタビューにそんな述懐(じゅっかい、recollection)がある。先人が育ててきた“うた”という大樹(だいじゅ)をさらに茂らせる(しげらせる)。「詞だけを見ても『谷村文学』でありたい」▼それが何より表れたのは、ソロの代表作「昴(すばる)」かもしれない。眼(め)閉づれど/心にうかぶ何もなし。/さびしくもまた眼をあけるかな――。石川啄木(いしかわ たくぼく)が歌集「悲しき玩具(がんぐ、おもちゃ)」に刻んだ心は、谷村さんの中で血肉(けつにく、ちにく)となったのだろう。生まれた壮大な楽曲(がくきょく)は海を越えて口ずさまれている▼人生が決まったのは中学生の時。近所の和楽器屋(わがっきや)のショーケースに、なぜか中古ギターが1本売られていた。洋楽のレコードを何度もかけては、音を一つひとつ拾ってまねた▼そんな体験ゆえか。アリスの曲づくりでは初心者(しょしんしゃ)が弾けることを目指したという。シンプルであれ。難しくするのは簡単である、と。「時代を突き抜けて行く“スタンダード”というのは、そういうものなのだ」(『夢創力(ゆめそうりょく)。』)▼わが幼心(おさなごころ)をふり返れば、男の色気(いろけ)というものを初めて感じたのは、谷村さんの歌だった覚えがある。力強く、ときに哀愁たっぷりに。「遠くで汽笛(きてき)を聞きながら」「いい日旅立ち」などの名曲を残して、谷村さんが74歳で逝ってしまった▼星のすばるはこの時期、真夜中に南中(なんちゅう)する。青白く(あおじろく)かすんで見えるのは、天の乙女(あまのおとめ)が悲しみに泣きぬれているからだ、という。〈我は行く。さらば昴よ〉。星が流れた。

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谷村 新司(たにむら しんじ、1948年〈昭和23年〉12月11日 - 2023年〈令和5年〉10月8日)は、日本のシンガーソングライター、タレント、作詞家、作曲家、大学教授。アリスのリーダー(日本のフォークグループ)。大阪府大阪市住之江区(すみのえく、当時は住吉区(すみよしく))の出身で、同南河内郡(みなみかわちぐん)長野町(現・河内長野市(かわちながのし))生まれの同大阪市東住吉区(ひがしすみよしく)桑津(かわづ)育ち。愛称はチンペイ。

血液型はAB型(ABO)。3人兄姉(けいし)の次男(兄1人、姉1人)。娘は歌手の谷村詩織。

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