2023年12月22日 5時00分
ダイハツの不正
物や土地の名前を歌や俳句に忍び込ませる。一種の言葉あそびが、この国には古くからあった。〈茎も葉もみな緑なる深芹(ふかぜり)は洗ふ根のみや白く見ゆらむ〉藤原輔相(ふじわら すけみ)。セリをめでる平安時代の歌に、当時の景勝地だろうか、「あらふねのみやしろ(荒船の御社)」が潜んでいる▼小林旭(こばやし あきら)さんのヒット曲「自動車ショー歌」も、その系譜だろう。独特の甲高い声(かんだかいこえ)で、好きな女性のもとへ通うさまをユーモラスに歌う。〈ニッサンするのはパッカード/骨のずいまでシボレーで/あとでひじてつクラウンさ〉。流行したのは1960年代。マイカーブーム到来の前ぶれのような歌だった▼一家に一台を目指して、軽自動車の開発に早くから取り組んだのがダイハツだった。ミゼット、ミラ、タント……。国内の軽自動車シェアの3割を占めるメーカーに信じがたい不正が見つかった▼エアバッグを膨らませる試験で衝撃を感知する装置のかわりにタイマーを仕込んだり、タイヤの空気圧データを改ざんしたり。不正は64車種にのぼるというから、ひどいものだ。国土交通省はきのう、本社への立ち入り検査をおこなった▼顧客の安全よりも、開発スケジュールを守るほうが大切だったとは。調査にあたった第三者委員会は「まず責められるべきは経営幹部である」と指摘している▼今なら自動車ショー歌はどうなるだろうか。考えてみた。〈期限の厳しい開発で/不正な行為がダイハッせい/これではもタント記者会見/経営刷新するしかない〉