2023年12月3日 5時00分
キックバックの正体は
「キックバック」は油断ならない言葉である。それが意味するところは、立場や状況で限りなく深刻になり得る。もとの英語は機械を始動させたり、銃を撃ったりした際の反作用(はんさよう)を指した。それがいつの間にか、カネがらみで怪しげな払い戻しなども意味するようになった▼インドネシアで32年間の長期政権を敷いた故スハルト氏は、「ミスター25%」と陰で呼ばれていた。あらゆる事業で契約金の4分の1をキックバックさせたからだ。強権的な開発独裁で、1998年に失脚するまで恐れられた▼その嫌な言葉が最近、日本でよく聞かれる。自民党の最大派閥(はばつ)・安倍派のパーティー券をめぐる問題だ。販売ノルマを超えて集めた分を派閥の収支報告書に記載せずに、所属議員側が裏金としてキックバックを受けていた疑いがあるという▼疑惑が報じられてから、キックバックとは何なのかと調べた。日本語と英語の辞書を何冊か当たってみたが、口利き(くちきき)への謝礼や手数料から賄賂(わいろ)、汚職(おしょく)まで幅広い▼その広範な(こうはんあ)定義のせいだろうか。今回の疑惑に対する議員らの軽さには、強い違和感を覚える。仕組みが「あったと思う」と言った後で撤回した議員もいた。もし賄賂や汚職を問われていたら、どうだっただろう。「自民1強」が続き、緩んでいるのではないか▼政治資金規正法は、「国民の不断の監視と批判の下」で政治活動を行うことを目的に掲げている。それを甘く見るとどうなるか。カネの疑惑がたどった過去が物語っている。