2023年12月2日 5時00分

ひきこもりラジオ

 《みんなでひきこもりラジオの時間です。今日までよく生き延びて、ここまで来てくださりました。ではお便りを。52歳の男性の方です。「高校1年から36年間ひきこもっています。親も年をとり、この人生どうなるのか。不安です」……お便りありがとうございます》▼月末の金曜日の夜。ひっそりとラジオから声が聞こえてくる。就労の悩みやいじめ、老老介護。ひきこもり当事者らの手紙やメールが、番組に毎月200通届く。生きる意味への疑問を記す投稿(きするとうこう)も多い▼担当するNHKアナウンサーの栗原望(くりはら のぞむ)さん(39)は読み上げると、あまり語らず、しばしば黙りこむ。当事者の中には、生き方や社会復帰(しゃかいふっき)について意見され続け、心を病む(やむ)人もいる。何も求めない沈黙には、温もり(ぬくもり)が宿る▼食事はひとり。家から出るのはつらい。でも誰かとつながりたい。そんなリスナーと一緒に乾杯をする。《皆さん、好きな飲み物をご用意ください。僕はボトルにコーヒーを入れてきました。いきますよ。せーの、乾杯!》。何千、何万という乾杯の発声が、隔てた壁(へだてたかべ)を越え、一つに溶けていく▼冷たい風が冬を告げる。この国では、年間に2万人が、自ら命を絶ってしまう。路上で生きる人や、季節性のうつを抱える人にとっても、最も苦しい時期だろう▼一日一日、ただ命をつなぐ。それだけで、十分に価値がある。穏やかな肯定(こうてい)の言葉とともに、50分間の放送は幕を下ろす。《それでは、皆さん。来月も生きてまた、お会いしましょう》