2023年11月23日 5時00分
持続可能な観光地とは
水や家財(かざい)を載せて運河(うんが)をのんびりと行き交う小舟(こぶね)。広場で遊ぶ子どもたち。ベネチア(Venezia、威尼斯)出身の友人が、1940年代に撮られたという白黒映像(しろくろえいぞう)のリンクを送ってきた。「昔々、ベネチアには普通の暮らしがあり観光客はいませんでした」と、皮肉っぽいメッセージが付いていた▼その「水の都」が、オーバーツーリズム(観光公害(かんこうこうがい))に苦しんでいる。コロナ前は人口5万の旧市街に、日帰り客(ひがえりきゃく)を含め年間2千万人が訪れた。橋も広場も観光客であふれ、家賃の高騰で住民は去った。住宅は民泊(みんしゅく)に、レストランはテイクアウト店になり風景も変わった▼京都は、鎌倉は、河口湖畔(かこうこはん)大丈夫だろうか。そんな不安を覚えるような回復ぶりである。先月の訪日外国人数(ほうにちがいこくにんすう)が、コロナ前を初めて超えたという。政府は2025年までにコロナ前の年間3188万人を超える目標を掲げる(かかげる)。だが、数字を伸ばせば良いというものではない▼「住んでよし、訪れてよし、受け入れてよし」。岸田文雄首相は、持続可能な観光地をこう表現する。客の受け入れと住民生活の質の両立を目指し、支援していくという。人の移動が再開した今ごろかとも思うが、事態は待ったなしだ▼欧州では、観光税を課してごみ処理費用などに回したり、民泊規制(みんぱくきせい)を強化したりしているが、どこも苦戦している。どの対策にも地域の協力が欠かせない▼できるだけ多く来て欲しいではなく、どれだけ受け入れられるか。そこから始めるしかないだろう。「三方良し」の対策は、たぶんない。
待ったなし 読み方:まったなし 別表記:待った無し
先延ばしにすることができず、時間的に差し迫っているさまを意味する語。俗に、ある事態が避けられないさまや、ある事象が起こる確率が非常に高いさまという意味で用いられることもある。
三方良し【さんぽうよし】 売り手よし、買い手よし、世間良し