2023年11月21日 5時00分

アナン氏の無念

 「せいぜい状況証拠にすぎないものを決定的新事実だというのは何故(なにゆえ)なんでしょう? われわれがそれほど簡単に納得(なっとく)すると思っているのでしょうか」。側近が当惑の声をあげた――。21年前の会合について、国連事務総長だったコフィ・アナン氏が回顧録『介入のとき』で振り返っている▼イラク開戦へと突き進む米国にとって当時、大量破壊兵器が存在すると示すのは「大義」をかけた重大事だった。だが、CIA高官がアナン氏に見せた数々の写真はただのビルにしか見えなかったという。そもそも存在しなかったのだから、当然ではある▼今回はどうか。イスラエル軍が先週、ガザのシファ病院へ地上部隊を突入(とつにゅう)させた。地下にイスラム組織ハマスの「司令部」があるから、というのが理由だ。直後から「いま見つかった」と、医療機器の横に置かれた自動小銃(じどうしょうじゅう)や手投げ弾(てなげだん)などの映像や写真が公開され始めた▼ハマス側は否定している。一部メディアはイスラエル軍に同行し、敷地内の穴を見た。患者や医師らとの接触は許されなかったという。米紙は「ハマスが病院を隠れみ(かくれみ)のにしたのかはわからなかった」と伝えた▼「ハマスがいるから」で侵攻が正当化されるのならば、ガザのあらゆる場所が攻撃対象になる。すでに犠牲者は1万3千人にのぼり、事(こと)は急を要する▼アナン氏が常に心を寄せたのは、中東地域の人々だった。イラク戦争を止められなかったことを「最悪の経験」とした彼が存命だったら、何と言っただろう。

コフィー・アナン

コフィー・アッタ・アナン(英: Kofi Atta Annan、1938年4月8日 - 2018年8月18日)は、第7代国際連合事務総長(1997年1月 - 2006年12月)。ガーナ共和国アシャンティ州クマシ出身。称号は聖マイケル・聖ジョージ勲章(GCMG)。英語、フランス語、クル語、アカン語、他のアフリカ諸言語を話す。

国連事務総長在任中の2001年にノーベル平和賞を受賞した。

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