2023年11月15日 5時00分

米中首脳に望むこと

 当時はまだ国家副主席だった習近平(シーチンピン)氏が訪米(ほうべい)したのは2012年のことだ。オバマ政権は異例の厚遇(こうぐう)ぶりを示した。中国の次のリーダーがどんな世界観の持ち主なのか、直に(じかに)見極めたかった(みきわめたかった)のだろう▼隔世(かくせい)の感があるが、両国が協調の未来を夢見ていたころの話だ。ただ、すでに暗転の予兆はあった。「腹いっぱいでやることのない外国人が、中国の欠点を論って(あげつらって)いる」。人権批判に反発する、そんな習氏の発言も伝えられていた。いまに続く強硬(きょうこう)外交のはしりだったか▼その後、首脳間(しゅのうかん)の会談を重ねるごとに、大統領の顔に失望の色が濃くなっていくのが見て分かった。オバマ氏が習氏の発言を遮って(さえぎって)、トイレに立ったとの話も聞いた▼紆余曲折(うよきょくせつ)の歳月を経て、対立を深めてきた米中の首脳が、日本時間のあす、サンフランシスコ近郊で会談する。軍同士の対話再開や台湾問題などが議題だという。だが、それだけでいいのか▼両国の繁栄の土台だった国際秩序はいま、激しく揺らいでいる。ロシアのウクライナ侵攻しかり、ガザの惨状しかり。国際法に反した暴力がいとも容易に振るわれ、無辜(むこ)の民が無残に殺される。人類が築いた道義の箍(たが)が、まるで外れてしまったかのようである▼二つの大国の指導者には、何とかお願いしたい。戦禍(せんか)に覆われた(おおわれた)、この世界を変えねばならない。そのために、米中の影響力をいかに発揮するか、じっくり話し合ってはもらえぬものか。儚い(はかない)願いとは知りつつも、そう思わずにはいられない。