2023年11月14日 5時00分

なぜなら、私はタックスマン

 ビートルズが、政治的メッセージを曲に込めるようになったのはいつからか。諸説(しょせつ)あるようだが、その一つは7作目のアルバム『リボルバー』の1曲目、ポールの軽快なベースラインが印象的な「タックスマン」からとされる▼1960年代、最高税率を「95%」にするとの英政権の増税策に、彼らは腹を立てたらしい。税務署員(ぜいむしょいん)を揶揄(やゆ)した歌詞にはこうある。〈5%は少ない? 全部でないのに感謝あれ。なぜなら、私はタックスマン〉▼理由は違えど(ちがえど)、日本の納税者もいま、怒っているのではないか。タックスマンの大元(おおもと)である財務省の副大臣が、税金の滞納で4度も差し押さえを受けていた。事実関係を認めた後も平然と居座り(いすわり)、きのうやっと、辞任した▼岸田政権が打ち出した所得減税や、防衛費の大幅増額のための増税の話などが、国会で議論されるなかでのことだ。これほど適材でない人物を、よくぞ要職に任命できたものである▼納得できないのは、いまに至るも、誰からもしっかりした説明がないことだ。「本人が説明責任を」と他人事のように繰り返す官房長官の弁には、もう食傷気味(しょくしょうぎみ)である。首相は「任命責任は、重く受け止める」と口にするだけで、またもや何ら責任をとらないつもりか▼税という敏感な問題に、この政権は極めて鈍感である。私たちは何のために、真面目に税金を払っているのか。〈尋ねてはなりません。これ以上、税金を払いたくないならば〉。痛烈な皮肉を込め、ビートルズは歌っている。

 自民党の神田憲次(かんだ けんじ)財務副大臣(衆院愛知5区)は9日の参院財政金融委員会で、2013年から22年にかけて、自身が代表取締役を務める会社が保有する土地と建物の固定資産税を滞納し、4回にわたって差し押さえを受けていたと明らかにした。神田氏は「深く反省している」と謝罪したものの、「引き続き職務の遂行に全力を傾注(けいちゅう)する」と述べ、副大臣の辞任は否定した。