2023年11月8日 5時00分
夏日と立冬
俳句づくりのうえで、好ましくないとされる一つに「季重なり(きがさなり)」がある。17文字の中に季語(きご)が複数ふくまれていることだ。ましてや、それぞれが違う季節を指せば(させば)、盛り込みすぎとの批判は免れがたい(まぬがれがたい)▼もっとも、村上鬼城(むらかみ きじょう)のような一句もあるから、不可侵(ふかしん)の法則ではないのだろう。〈小春日や(こはるびや)石を噛みゐる(いしをかみいる)赤蜻蛉(あかとんぼ)〉。旧暦で冬にあたるうららかな日、秋のトンボが命果てる前にじっと虚空(こくう、きょくう)をみつめる。季節は流れる。いまという瞬間の中に、過ぎた日々は影を落とし、未来の萌芽(ほうが)は潜む(ひそむ)。移ろい(うつろい)の妙である▼さて、このごろはどうしたものだろう。目の前の情景をありのままに写し詠めば(うつしよめば)、避けるべき「季重なり(きがさなり)」も当然だと言いたくなる。きょうは立冬でありながら、東京都心ではきのう最高気温が27度を超えた。人いきれの蒸し暑さで、通勤電車の中では空調(くうちょう)がかかっていた▼都心では今年、これで143日目の夏日(なつび)だという。ここから急速に秋が深まるとの予報だが、一年のうち夏が4割を占めるというのはさすがに尋常でない。地球温暖化の表れだろう▼亜熱帯(あねったい)の沖縄には、小春日(こはるび)ならぬ「小夏日」という季語があるそうだ。初冬にかけての強い陽光で、春というよりも夏がぶり返したような暑さに見舞われる日がある。先週訪れた時も、多くが半袖姿だった。〈小夏日の最前列にさんぴん茶〉玉城幸子▼ゴーヤーや泡盛など、沖縄から本土に広まってうれしいものはたくさんある。でもこの季語だけは、ごめんこうむりたい。