2023年11月5日 5時00分
読書バリアフリーを考える
眼鏡をかけた男の子が、手にした本のページを一心に見つめている。ニコニコとして、いかにも、うれしそうだ。いま、彼は読書を楽しんでいるな。東京にある豊島(とよしま)区立中央図書館のベテラン司書、石川典子(いしかわ のりこ)さんは見ていて、胸がいっぱいになったという▼男の子が読んでいたのは、視覚に障害がある人向けの大きな活字の本だった。今春、同図書館は「りんごのたな」というコーナーを新たに設けた。触って楽しむ本や読みやすさに工夫をこらした本が、ずらりと棚に並んでいる▼「すべての子どもに読書の喜びを」との思いを込め、石川さんたちは本を選んだという。「こういう本が読みたかったんです」。視力が徐々に失われていく病気の子の母親には感謝された後、言われた。「以前はなかったですよね」▼棚の案内に「障害」という言葉はあえて使っていない。「多様性を考える本」などと呼ぶことにした。年老いれば、みな視力が衰え、体も自由がきかなくなる。読書バリアフリーは、誰しもが直面する問題である▼重度障害の当事者である市川沙央(いしかわ さおう)さんが、芥川賞の受賞会見で放った重い言葉を思い出す。「読みたい本を読めないというのは権利侵害だ」。恥ずかしながら、頭をガンと打たれた気がした▼「障害は訪れる人ではなく、サービスをする図書館の側にあるのだと思いました」。どうすれば、もっと多くの人が読書を楽しめるようになるのか。「私たちもまだまだ、これからです」。石川さんはそう話している。