2023年6月30日 5時00

アクティビストの戦術

 最近よく耳にするアクティビストは、もの言う株主を指す。投資先の企業の株価が上がるように積極的に働きかける。その戦術などを表現する用語には、戦争に由来する言葉が多いそうだ。企業買収に詳しい太田洋(おおだ よう)弁護士の近著『敵対的買収とアクティビスト』で知った▼たとえば、ウルフパック(群狼〈ぐんろう〉)は、複数のアクティビストなどが別々に株式を買い進めて一気に要求を通す行為を意味する。もとは第2次世界大戦中、ナチス・ドイツの海軍提督(かいぐんていとく)が考案した戦術だ。Uボートを多数配置し、英国の通商ルートを破壊した▼調べるとほかにもある。取引開始直後に大量に買う「暁の急襲(あかつきのきゅうしゅう)」。市場から抜けるために利益を放棄して投げ売りする「降伏(こうふく)」。投資と無縁の身にはただ恐ろしげに響く軍事用語が、特別な意味を持つ世界がある▼今年も株主総会の季節が来た。ピークのきのうは600社近い企業が開いた。株主提案が過去最多(さいた)になったのは、経営のあり方についてモノを言いたい株主が増えたからだ。目先の利益還元(りえきかんげん)の要求から中長期的な提言まで、内容も多岐に(たきに)わたるという▼かつて株主総会には、金品目当て(きんぴんめあて)で介入する総会屋がつきものだった。同一日(どういちにち)に集中したのは出席を避けるためだったが、法改正や規制強化などで激減した▼太田氏は、アクティビズムやその対応で何が「良い」かの正解はないと書いている。もの言わぬ株主でも株主でなくても、会社はだれのものかを改めて考えたい。できれば平和的な言葉で。