2023年6月24日 5時00分
戦争と基地のにおい
においの話をしたいと思う。沖縄の地を訪れ、出合った、ふたつのにおいだ。どちらも、いい香りとはとても言えないものだが、忘れられない。言葉で表す(あらわす)、視覚に示す。それでも伝えきれない何かを、ときに臭気(しゅうき)は雄弁に教えてくれる▼嘉手納町(かでなまち)にある「道の駅かでな」には、巨大な米軍基地と隣り合う暮らしを体験できるブースが設けられている。なかに入ると、子どもと母親の何げない会話が聞こえてきた。ただ、すぐに軍用機の爆音が響き、声はかき消されてしまう▼驚いたのは、これとともに、ツンとした燃料臭(ねんりょうしゅう)が噴き出されてくることだ。騒音(そうおん)は想像していたが、戦闘機が飛び立つ下ではこんな臭気があるのかと初めて知った▼南風原町(はえばるまち)には、旧日本軍がつくった陸軍病院の地下壕跡(ちかごうせき)が残る。ひめゆり学徒隊も動員されたところだ。戦後、多くの遺骨がみつかったという。「骸骨山(ガイコツやま)って呼ばれてました」。近くに住む女性は言った▼復元した壕の見学だけでなく、希望すれば、戦下の壕内を再現してつくったにおいをかぐことができる。消毒液か、火薬か、人の汗か。異様な臭さ(くささ)が鼻をつく。沖縄戦の悲惨な記憶を風化させてはならぬ。何とか伝えたいとの強い思いが、心に刺さった(ささった)▼戦争の歴史と米軍基地。ふたつの重い枷(かせ)を負ってきた沖縄でいままた、自衛隊の増強が急速に進む。きのうの戦没者の追悼式で、「大きな不安」があると知事は訴えた。首相はしかと、受けとめてほしい。その耳に、目に、いや鼻にも。