2023年6月19日 5時00分

若者に届く言葉

 若者へ真剣に語るとき、大人は特別な思いを込めるものだ。期待や忠告、自身を振り返っての感傷も。有名なのはスティーブ・ジョブズ氏の「ハングリーであれ。愚かであれ(Stay Hungry. Stay Foolish)」だろう。米アップル社の創業者(そうぎょうしゃ)が米大学の卒業式で披露した人生観は感動を呼んだ▼英首相を務めたサッチャー氏は、若者に発破(はっぱ)をかける際も新自由主義を掲げた(かかげた)。「大学は経済発展に必要な知識や技能を提供する場だ。理想を行動で支えなさい」。30年前に大学に招かれ、21世紀に「侵略的な統治者が他の地を奪おうとするだろう」と予測したのは慧眼(けいがん)だった▼「ハッシュタグ(hashtag)だけでなく投票も必要です」。演説上手のオバマ元米大統領は、若者向けの話もうまい。変革するには情熱に加え(くわえ)、戦略が必要だ。若者はSNSで発信するだけでなく、投票所へ足を運んでほしいと退任後、米大学のスピーチで訴えた(うったえた)▼さて、日本はどうか。きのう、岸田首相が母校(ぼこう)の早稲田大学で講演した。大学受験で失敗を繰り返した体験をつかみに、「私もいろいろと道草(みちくさ)、回り道をした。人生のまさかを前向きに捉えて(とらえて)、お互い明るく生きていこう」と語りかけた▼学生の質問には真面目に答え、数日前まで吹いていた解散風への言及はなかった。最前列には早大OBの森喜朗(もりよしろう)元首相の姿も。最後の校歌斉唱(こうかせいしょう)は盛り上がった▼言葉は人を表すという。普段より簡潔に、親しみやすく話そうとすればなおさらだ。「明るく生きよう」のメッセージを若者はどう受け止めただろう。