2023年6月11日 5時00分
若者言葉に驚いた
夕方のバス停でのこと。中学生らしき制服姿の女の子たちの会話が耳に入ってきた。「きのうさー、先生にさあ、ボロクソほめられちゃったんだ」。えっと驚いて振り向くと、楽しげな笑顔があった。若者が使う表現は何とも面白い▼「前髪(まえがみ)の治安が悪い」「気分はアゲアゲ」。もっと奇妙な言い方も闊歩(かっぽ)する昨今だ。多くの人が使えば、それが当たり前になっていく。「ボロクソ」は否定的な文脈で使うのだと、彼女らを諭すのはつまらない。言葉は生き物である▼大正の時代、芥川龍之介は『澄江堂(ちょうこうどう)雑記』に書いている。東京では「とても」という言葉は「とてもかなはない」などと否定形で使われてきた。だが、最近はどうしたことか。「とても安い」などと肯定文(こうていぶん)でも使われている、と。時が変われば、正しい日本語も変化する▼今どきの若者は、SNSの文章に句点を記さないとも聞いた。「。」を付けると冷たい感じがするらしい。元々、日本語に句読点(くどくてん)がなかったのを思えば、こちらは先祖返り(せんぞがえり)のような話か▼新しさ古さに関係なく、気をつけるべきは居心地の悪さを感じさせる表現なのだろう。先日の小欄で「腹に落ちない」と書いたら、間違いでは、との投書をいただいた。きちんと辞書にある言葉だが、腑(ふ)に落ちない方もいるようだ▼新語は生まれても、多くが廃れ消えて(すたれきえて)ゆく。さて「ボロクソ」はどうなることか。それにしても、あの女の子、うれしそうだったなあ。いったい何を、そんなにほめられたのだろう。
- ぼろ‐くそ【襤褸糞】
- 劣悪(れつあく)なものをののしっていう語。また、劣悪なものとしてののしって言うさま。「―に言う」
- せんぞがえり ―がへり 4【先祖返り】
- 生物が進化の過程で失った形質が子孫のある個体に偶然に出現する現象。遺伝子の組み替え・突然変異などにより説明される。ヒトに一対以上の乳房が生じたりする類。隔世遺伝(かくせいいでん)。帰先遺伝(きせんいでん)。アタビズム。