2023年6月1日 5時00分
恋に落ちたペンギン
絵本『タンタンタンゴはパパふたり』は、オス同士のペンギンが恋をする物語だ。別のペンギンが放置した卵を、2羽は大事にあたためる。やがてタンゴが生まれると、3羽は家族になった。ニューヨークの動物園での実話が基に(もとに)なっている▼英国に住む作家ブレイディみかこさんによれば、かの国でも広く知られた絵本らしい。保育士だった彼女も、保育園で幾度(いくど)となく読み聞かせをしたそうだ。園児たちが決まって盛り上がるのは、オス同士のペンギンが「愛し合っているに違いない」というところだったとか▼そこでの彼女の気づきが素晴らしい。子どもにとって「誰と誰」が恋したのかは問題でない。その人がマイノリティーであっても関係ない。重要なのは、誰かが「恋に落ちる」ということ。著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』に作家はそう記している▼誰でも、誰に対しても、結婚の自由が認められるような社会に向け、重い一石を投じる判決が出た。おととい、名古屋地裁はこれまでより踏み込んで、同性婚を認めないのは「違憲」との判断を示した▼世界では30以上の国が同性婚を認めている。日本でも世論調査は「容認」が過半数を占める。もはや「社会が変わってしまう」(岸田首相)などと言っている場合ではあるまい▼実際、結婚も家族も多様である。ブレイディさんは中学生の息子に言われたそうだ。「いろいろあるのが当たり前だから」。日本の政治も、そんな現実を直視してほしい。