2023年6月6日 5時00分
時代と自然と夏の季語
梅干し、梅酒に梅シロップ。氷砂糖(こおりざとう)に漬け終わった梅を取り出して煮たジャムも格別だ。平年より高い気温と降水量の多さで、今年は青梅(あおうめ)の収穫が早まっているという。そろそろ梅仕事(うめしごと)をしようと焦るうち、日本列島は西から梅雨入り(つゆいり)が進む▼きょうは二十四節気の芒種(ぼうしゅ)。稲(いね)のように穂先(ほさき)がとげ状の「芒(のぎ)」を持つ穀類(こくるい)の種をまく時期で、梅雨と重なる。地球温暖化で混乱しそうな季節感を、言葉で繋ぎ止めたい(つなぎとめたい)と思う。とはいえ、立夏(りっか)や夏至(げし)などと比べると地味で聞き慣れない季語ではある▼『絶滅寸前季語辞典』を開くと、やはり芒種が載っていた。編者の夏井いつきさんは、言葉の響きにひかれて調べるうちに「低温だが体の芯に及んでくるような熱気」を感じたそうだ。そうして詠んだのが〈ごんごんと芒種の水を呑みほせり〉▼絶滅寸前とされた季語には、稲作(いなさく)に絡むものが目立つ。田植え後に祝う「早苗饗(さなぶり)」や土間でもみをする「夜庭(よにわ)」など、生活様式の変容や機械化で忘れられていく季語がある。だから俳句という非日常の世界で生かしたいと、夏井さんは書く▼先週末の大雨は台風の影響によるものだった。秋の季語の台風が夏を追い越した(おいこした)のか。いや芒種だって、多くの地域ではもう田植えまで終わっている。冬の季語のマスクも、花粉症とコロナで変わるかもしれない▼今年の梅は、三温糖(さんおんとう)と蜂蜜(はちみつ)で漬けてみようか。災害に留意しつつ、じめじめを乗り越えたい。〈芒種とふこころに播かむ種子もがな〉能村登四郎(のむら としろう、1911年1月5日 - 2001年5月24日)。
- きご 1【季語】
- 連歌・俳諧・俳句などで,句の季節を規定する言葉。季の詞。四季の詞。季題。
- げし 02【夏至】 〔古くは「げじ」とも〕
- 二十四節気の一。太陽が黄経90度に達した時をいい,現行の太陽暦で6月22日頃。北半球では太陽の南中高度が最も高く,昼間が最も長くなる。五月中気。季夏「白衣著て禰宜にもなるや―の杣」飯田蛇笏 ↔冬至
- ま・く 1【蒔く・播く】 (動カ五[四])
- ① 発芽・生育させるために,植物の種を地面に散らしたり,地中に埋めたりする。「苗代(なわしろ)に籾(もみ)を―・く」
- ② 物事の原因をつくる。「自分で―・いた種」
- 蒔種は生えぬ(まかぬたねははえぬ)
- 何もしないのに,よい結果が得られるわけはない。