2023年8月30日 5時00分
ジャニーズ事務所への提言
数々の疑惑や漠然(ばくぜん)と感じていた異常性が、明確な文字になった。故ジャニー喜多川氏(きたがわ)による性加害問題で、「再発防止特別チーム」がきのう公表した調査報告書を読み、そう感じた。同族経営による弊害を指摘し、社長辞任の必要性にまで踏み込んだ。改めて被害者たちの痛み(いたみ)、苦しみを思う▼事務所での性加害は1970年代前半から40年以上にわたった。その原因はジャニー氏の性嗜好(しこう)異常や、姉の故メリー氏による放置(ほうち)と隠蔽(いんぺい)にあるとも。このチームに客観的(かっかんてき)な調査ができるのかとの懸念は不要だったか▼「故人による性加害の確認」という壁を破ったのは、勇気を出した告発者らによる証言だ。今年3月、英BBCのドキュメンタリー番組で複数の元ジャニーズJr.が証言したのを発端(ほったん)に、次々と声が上がり始めた▼番組(ばんぐみ)を見ていたカウアン・オカモトさんは「他人が被害を真面目な口調(くちょう)で語る姿を初めて見た」と自著『ユー。』で書いている。泣きながら語る姿に「僕も、そろそろ覚悟を決めるときじゃないか」と決意する。そして臨んだ会見には国内外の記者が多数集まり、社会の空気が変わった▼今回の報告書では、背景として「マスメディアの沈黙(ちんもく)」も挙げられた。正面から取り上げなかったとか、報道を控えたのではないかとの指摘である。真摯(しんし)に受け止めなければいけない▼被害者を救済する制度や人権方針の策定まで含む、重いボールが投げられた。事務所は被害者と向き合い、再発防止策を速やかに進めてほしい。