2023年8月25日 5時00分

ロシアのけんかいうたら

 「わしらどこで道、間違えたんかのう」。昭和を代表する名作映画『仁義(にんぎ)なき戦い』シリーズで、松方弘樹(まつかた ひろき)さん演じるやくざが自らの半生(はんしょう)を振り返り、静かに呟く(つぶやく)。そのきつい広島弁がなぜか、遠くロシアの方から聞こえてきたような気がした▼ワグネルの創設者、プリゴジン氏が乗ったとみられるジェット機が墜落(ついらく)した。撃墜(げきつい)されたとの見方もある。ナゾに満ちた突然の反乱宣言から2カ月。粛清(しゅくせい)の可能性が取り沙汰(とりざた)されている▼事実関係はよく分からない。だが、「広島のけんかいうたら、とるかとられるかの二つしかありゃせん」との名セリフが、どうしても頭に浮かんでしまう。ロシアではこれまでも、裏切り者とされた元将校らが次々と、不審な死を遂げてきたからだ▼プーチン氏の料理人と呼ばれたプリゴジン氏は、政権が表に出られない、汚れ役(よごれやく)の軍事工作を担って(になって)きたと言われる。反乱の後、手打ちがあったとも見られていた。ところが、実際は「調子に乗りやがって、ええ加減にせえよ」ということだったか▼反逆、裏切り、粛清……。まるで謀略が張り巡らされた時代への回帰のようで、恐ろしくなる。いやいや、例える(たとえる)べきは皇帝の寵愛(ちょうあい)を競う(きそう)宦官(かんがん)たちの争いか、あるいはマフィアの抗争か▼ロシアのウクライナ侵攻から1年半。モスクワの中枢(ちゅうす)ではいま、いったい何が起きているのだろう。「わしらの時代は終わったんじゃけぇ」。プーチン氏本人(ほんにん)から、悔恨(かいこん)を込めた、そんな言葉が聞けるのはいつの日か。