バービーとキノコ雲 有料記事
2023年8月4日 5時00分 バービーとキノコ雲 2023年8月4日 5時00分
バービーとキノコ雲
ピリピリする強烈なシナモン味は、病みつきになるらしい。米国で広く売られるアトミックファイアボール(atomic fire ball)という赤い飴玉(あめだま)である。直訳すれば、原子の火の球(ひのたま)。原爆を露骨に連想させる名称だが、詩人のアーサー・ビナードさんは深く考えず、その飴をなめて育ったそうだ▼気づきを得たのは「ピカドン」という言葉を日本で聞いたときだった。米国の爆撃機が見下ろした広島でなく、それを見上げた人々が住む広島を初めて意識した。飴玉の「甘い勘違いが一気に吹っ飛んだ」という(『知らなかった、ぼくらの戦争』)▼かつてのビナードさんのように、誰かが傷つくのを想像できなかったのだろう。米映画「バービー」のファンが面白がって、主人公の髪形をキノコ雲にした画像をSNSに投稿していた▼映画会社の返信も好意的なものだった。「被爆者を軽視している」といった批判の声が日本で上がったのは当然である。会社側は、配慮に欠けた対応だったと謝罪した▼日本への原爆使用は正しかった――。そう考える米国人は投下直後の調査で8割に上った(のぼった)。近年は減ってきているが、それでも半数を超える。原爆をめぐり、日米の認識の差は依然として大きい▼いつの世も、加害の側が被害者の気持ちを理解することは難しい。日本には、アジアに対する侵略の歴史もある。それでも、世界に問い続けるべきなのだろう。原爆投下はいかに残酷で、いかに人道に反したものであったか。ジョークにするなど、とんでもない。
- ピカドン
- 第二次世界大戦末期の1945年8月、広島および長崎に投下された原子爆弾の俗称。「ピカ」は閃光、「ドン」は爆音を表したもの[1]。