2023年8月2日 5時00分

文春報道に思う

 中国の人々はときに、権力が発する異臭(いしゅう)を敏感(びんかん)に嗅ぎ取る(かぎとる、sniff)。将来を有望視された高官の妻が何やら事件に関わっているらしい。そんなうわさが、流れていた。ただ、それが国家の中枢(ちゅうすう)を揺るがす大事件になるとは、想像できなかった▼2012年、党高官だった薄熙来(ポーシーライ)氏が失脚したときの話である。英国人男性の不審死を調べた公安局長は、上司の薄氏に夫人の関与を伝え、揉み消し(もみけし)を約束した。「任せてください」。そんな言い方をしたと当時の報道は伝える▼だが、薄氏は部下を信じなかった。中国政治は非情(ひじょう、(⇨無情, ⇨冷酷))である。公安局長は解任され、身の危険を感じて亡命に走る。前代未聞のスキャンダルが次々と明らかになった▼さすがに日本でそんなことはあり得まい(That would never happen in Japan.)。そう信じつつ、気になるのは、首相の右腕(みぎうで)とされる官房副長官をめぐる週刊文春の報道である。副長官と再婚した女性が前夫(ぜんぷ)の死について事情聴取を受け、副長官が捜査に圧力をかけた、との疑惑があるという▼本人は「事実無根(むじつむこん)」と否定している。私人(しじん)である女性の人権は守られるべきだ。だが、それにしても政府の対応は素っ気ない(そっけない、a curt [a blunt] answer)。副長官が記者会見などで反論しないのも解せない(げせない、納得できない)。いったい事実はどこにあるのか。疑念の声が燻る(くすぶる)のも仕方あるまい▼文春は報道の根拠も明かしている。問われているのは権力中枢からの圧力の有無(ゆうむ)であり、法治(ほうち)という、この国のありようの根幹である。権力の側はもっと、人々の腹に落ちる説明に努めるべきではないのか。

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薄熙来事件(はくきらいじけん、ボーシーライじけん)とは、中華人民共和国重慶市共産党委員会書記の薄熙来に絡む事件。

中国共産党中央政治局委員であり重慶市共産党委員会書記の薄熙来は、重慶市のトップとして外資導入による経済発展、マフィア撲滅運動、格差が少なかった過去を懐かしむ革命歌の唱和運動などで注目されていた。そのため、2012年秋に開催される中国共産党第18回全国代表大会において中国最高指導部である中国共産党中央政治局常務委員会入りについて注目されるキーパーソンと目されていた。

しかし、2012年2月に発生した側近のアメリカ領事館亡命未遂事件を端に発し、薄熙来に絡み、妻による英国人実業家殺害、一家の不正蓄財、マフィア撲滅運動における拷問問題、女性との不適切な交際[1]などの薄熙来について数々のスキャンダルが報じられた。これによって、薄熙来は政治的に失脚した。

なお、英語圏のメディアでは亡命した側近の名から「王立軍事件 (Wang Lijun incident) として知られる。外国版記事はen:Wang Lijun incidentを参照のこと。