2023年5月25日 5時00分
マイナカード総点検
『マーフィーの法則』(アーサー・ブロック著)は、米社会での皮肉と警句を集めた、かつてのベストセラーだ。こんな言葉がある。〈どんなに素晴らしい仕事を上司に示しても、上司は、その結果に手を加えようとする〉。おや、弊社記者のぼやきをどこかで聞いていたのだろうか?▼こんな一節もあった。〈何かをしようとすると、先にやらなければならない何かが現れる〉。霞が関や自治体でマイナンバーを担当している役人は、まさにこんな気分かもしれない▼それにしても次から次へトラブルがあるものだ。別人の住民票が交付され、知らぬ人の医療情報が結びつけられ、今度は誤った口座が登録された。後者二つは、政府が言うように、単純な「人為的なミス」だとは思う。しかしそれも、強引にカードの普及をはかった政府の方針と無縁ではなかろう▼ポイント付与というアメで釣り、健康保険証の廃止というムチで叩(たた)く。自治体の窓口には、カード申請の駆け込み行列ができた。その果てに、データの「総点検」をやらざるを得なくなるとは皮肉なものだ▼マーフィーの法則から、もう一つ。〈プロジェクトの90%を終了させるには、決められた期間の90%の時間がかかる。残りの10%を終了させるにも、同じだけかかる〉▼点検が済んでも、マイナンバーと各種データのひもづけ作業が続く以上、「人為的なミス」は今後もありうる。そこまで射程にいれた対策を政府としてたてねば、制度の信頼は失われるばかりだ。
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