2023年5月19日

省エネの大食漢

 見事な食べっぷりはどこか人を魅了するもののようだ。「海の掃除屋(そうじや)」と呼ばれ、水族館の人気者(にんきもの)であるオオグソクムシの食欲は凄まじい(すさまじい)。暗い深海の底でひっそりと暮らす、体長10センチほどのダンゴムシの仲間である。死んだクジラや魚が沈んでくると、これを食べる。食べる。食べる▼いったいどのくらい大食い(おおくい)なのか。長崎大による最新の実験結果を聞き、驚いた。一度に食した(しょくした)のは、なんと体重の半分もの重さのエサだったそうだ。多くの生き物では数%が限界というから、桁外れ(けたはずれ)の大食漢である▼満腹後(まんぷくあと)には動きが鈍くなり、代謝が低くなることもわかった。いわば省エネモードに入り、長い断食に耐えられるらしい。計算上は、生きるのに必要なエネルギー約6年分を1回の食事でまかなえるとか▼たくさん食べても、エネルギーを乱費(らんぴ)しない堅実な省エネ生活とは、何ともすばらしい。エサの少ない深海ならではの知恵だろう。同大准教授の八木光晴(やぎ みつはる)さん(43)は「面白いですよね。考えさせられる生き様です」▼身体の代謝に限らずにいえば、地球上(ちきゅううえ)で最も激しくエネルギーを使っている生き物は人類である。食事からトイレまで、その暮らしは電気などの大量消費に支えられている。「人間は異質です。巨人のようにエネルギーを使い、地球に負荷をかけている」と八木さんは指摘する▼電気料金の大幅値上げのニュースにため息をつき、節電を意識しながら考える。私たちがオオグソクムシから学べるものは何だろう。


ダンゴムシ.png

オオグソクムシ.png

「オオグソクムシ」は、駿河湾以南の水深200~600mほどの海底に生息する甲殻類。体長は10センチ~15センチほど。海底に沈んだ魚や鯨などをエサにしている生物です。見た目の通り、ダンゴムシの仲間でもあります。

「オオグソクムシ」に近い仲間であり、メキシコ湾などの深海に生息している「ダイオウグソクムシ」が、5年以上もエサを食べずに過ごしている個体がいたことで全国的にも注目されました。そこで、長崎大学の田中さんたちはその絶食のメカニズムに興味を持ち、謎を探るため「オオグソクムシ」で研究を始めました