2023年5月12日

アン王女の役割

 英国のアン王女(72, Anne)は、故エリザベス女王の一人娘である。女王死去の4日後、女性王族として初めて棺(ひつぎ)のそばで黙祷(もくとう)する儀式に参加した。兄の国王の戴冠(たいかん)式後は軍服姿で馬に乗り、王立騎兵隊(おうりつきへいたい)を率いて護衛役を務めた▼若いころから率直な言動で人気が高く、慈善団体(じぜんだんたい)や介護施設の訪問など多くの公務をこなす。約50年前の誘拐未遂事件では、銃を持つ犯人の要求を拒否して切り抜けた。前夫(ぜんぷ)との間に息子と娘がいるが「普通に育てたい」と、王子や王女の称号を辞退している▼アン王女を見ると、英王室の底力(そこりょく)を感じる。そもそも「民主主義国家の君主」というのは微妙な立場だ。数々の醜聞(しゅうぶん)を乗り越えて続くのは、地道でぶれない貢献を積み重ねてきたからだろう▼歴史で培われた(つちかわれた)王室のバランス感覚は、昨年の首相辞任劇でも垣間見られた。コロナ下の官邸宴会など不祥事続きのジョンソン氏が、解散・総選挙で生き残りを図ったのだ。無謀だが、議会を解散する立場のエリザベス女王が首相要請を断れば、政治と社会が混乱する恐れがあった▼与党幹部と廷臣たちが相談し、ジョンソン氏が電話してきても「女王陛下は電話口に出ない」と決めたという。(セバスチャン・ペイン著『ボリス・ジョンソンの凋落〈ちょうらく〉』、未訳)。ジョンソン氏は自制し、辞任を受け入れた▼「君臨すれども統治せず」は英王室の原則だ。うまく機能すれば、政治の暴走を抑えることもあるだろう。国王は、女王のように政治と距離を置けるだろうか。


「君臨すれども統治せず」は、統治者が権力を持っているにもかかわらず、実際に統治に失敗していることを指す表現です。つまり、統治者が威厳や権力を維持しているだけで、国民の生活や社会の発展に貢献していない状況を指します。この表現は、古代中国の政治家・文化人である孔子が用いた言葉が元になっています。



princessAnne.png princessAnne−01.png

「地道でぶれない貢献」とは、小さな一歩ずつ着実に進み、途中で逸れたりぶれたりせず、最終的に大きな貢献をすることを意味します。目の前の小さな課題に真摯に向き合い、確実にクリアしていくことが、大きな成果を生むための基盤になるという考え方です。このような姿勢は、長期的な視野を持って取り組むことが必要な社会的な問題解決や、プロジェクトの運営などで重要視されます.

アン王女のテロ事件

 1973年11月14日、女王の長女・アン王女が結婚した。夫となったマーク・フィリップス大尉はミュンヘンオリンピック馬術競技のゴールドメダリスト。彼は裕福でもなければ御曹司(おんぞうし)でもないが、アン王女はマーク・フィリップス大尉を、「私が今まで出会った中で一番心の優しい馬乗り」と一目ぼれだった。

princessAnne−02.png

 祝福ムードをぶち壊すように、次なる事件が勃発する。アン王女の誘拐未遂事件だ。1974年3月20日の夜、新婚のアン王女夫妻はチャリティ・パーティからの帰途、王室リムジンでセント・ジェームズ公園を通ってバッキンガム宮殿に戻る途中だった。フロントには王室メンバーの乗車を示す青いライトが光っていた。突然リムジンに向けて白い小型のフォード車が追突。

princessAnne−03.png

 ほかの車も歩行者も息を呑んだ。フォードから、銃を持った男が飛び出していきなり発砲する。男はアン王女のリムジンに駆け寄って、護衛官と通行人の一人を撃った。犯人イアン・ポールの狙いは王女夫妻の乗るリムジンを襲撃し、王女を誘拐(ゆうかい)して身代金(みのしろきん)200万ポンドを得ることだった。警備の警官は王女を守るために、壮絶な撃ち合いが始まる。目の前の銃撃戦で4人が撃たれ、現場は血みどろだった。犯人はリムジンに近寄って銃を王女に向け、「俺は200万ポンドがほしい。王女が人質になってくれ。車から降りろ」と要求する。犯人は王女を捕まえようと後部座席のドアに突進する。ところがアン王女自らが、「とんでもない。私は車を降りないわよ。200万ポンドなんて持っていないわ」と要求を拒否する。アン王女は夫と車の中からドアをしっかり押さえて開けさせなかったのである。 

princessAnne−04.png

 アン王女は気が強く冷静だった。アン王女夫妻は車内で必死にドアをロックし、王室警備到着の時間を稼いだ。いきり立った犯人が運転手や警官、介入した通行人に手当たり次第に発砲している間に、警備の警官が駆けつけ、犯人逮捕と相成った。 

この情報をアメリカの公務先で聞いた兄のチャールズ皇太子は驚いたり喜んだり。「彼女ならやるだろう」と妹の勇気を褒めたり自慢したり、上機嫌だったと伝えられている。